人はどこまでの巨大災害に向き合うべきか
2017年12月27日
人知を越えた自然の猛威にどう向き合うべきなのか。伊方原発の運転差し止めを命じた広島高裁の決定は、そんな問題を投げかけた。こんな巨大噴火に対応が可能なのか、何が問題とされたのか、いつか必ず起きる巨大噴火をどう受け止めるべきなのか。
高裁の決定で「破局的噴火」と表現された巨大噴火。9万年前に阿蘇山で起きたような大噴火だ。大量にマグマが放出されるため、その上の地面は陥没してしまって巨大な窪地であるカルデラができる。カルデラ噴火とも呼ばれる。この噴火が起きたときの物語を科学的に忠実に描いた石黒耀さんのSF小説「死都日本」では「破局噴火」と表現され、この言い方が広く使われるようになった。阿蘇山の9万前の噴火では火砕流が160km先まで到達して、北海道にも厚さ15cmの火山灰が積もった。九州は、あっとういう前に壊滅して、日本中が火山灰で覆い尽くされ、日本が壊滅してしまう噴火だ。
そのエネルギー規模は、巨大地震を凌駕する。例えば、南九州沖の海底にある鬼界カルデラで7300万年前に起きた巨大噴火のエネルギーは、東日本大震災の揺れのエネルギーの800倍に相当する。想像しにくい規模。比較のために、世界で1日に消費されるエネルギーを1とすると、大型の原発1基が1年間発電しても0.02、長崎県の雲仙・普賢岳の噴火は1991〜95年まで合わせても0.6、東日本大震災の揺れは1.4に過ぎない。海上にいるときも含めて大量の雨を降らせる大型台風でも130。これらに対して、鬼界カルデラの噴火は1450になる。広島型原爆の3千万倍の規模だ。
こうした噴火は、日本では九州や北海道、東北の十和田湖などで繰り返され、世界でもインドネシアや米国などで起きてきた。約7万年前にインドネシアのトバ火山で起きた噴火後、一時は50万人を超えていた人類の総人口が約1万人まで激減して、絶滅の危機に瀕した。過去の噴火を調べると、日本では1万年に1回起きており、最後の鬼界カルデラの噴火から7300年たっている。巽好幸・神戸大教授は、日本での破局的噴火の可能性について、過去の噴火頻度から統計的に、今後100年で1%程度と推計して「いつ起きてもおかしくない」と指摘する。1万年に1回と聞くと、無視してもよさそうに思えるかも知れないが、100年で1%と聞くと印象はだいぶ変わる。
つまり、いつかは必ず起きる噴火だが、「防災」の域を遥かに超え、多くの人が助かるための現実的な対策を立てることはできない。
広島高裁の12月13日の決定は、広島地裁は3月に住民からの伊方原発の運転差し止め仮処分申請を却下した決定を覆して運転を禁じた。阿蘇山で過去に起きた最大規模の噴火、つまり9万年前と同様の噴火が起きたとき、火砕流の影響を受けないとは言えないと判断した。
もともと、伊方原発に限らず、巨大噴火が起きた場合、原発は火砕流が到達すればもちろんのこと、到達しなくても、火山灰が分厚く積もり人々は生き残りのために絶望的な活動をするなかで、原発事故を防ぐために人員や物資を原発に運び、原発を止めて冷やす活動が続けられるかは疑問視されていた。
これに対して、広島高裁は、社会的にも目立った不安や疑問がない現象だからリスクを無視するというのは疑問、対処不能な火砕流が伊方原発まで届かないとはいえないし、それよりも少し小さめの噴火であっても伊方原発に降る火山灰の量の見込みが過小だから、運転を認めた原子力規制委員会の判断は不合理だ、と判断した。
伊方原発は、日本を縦断する長大な活断層である中央構造線に沿いにあるだけに、火山を理由したのは、予想外だった。
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