論文撤回監視サイトの「日本コーナー」18本の記事を中心に
2017年12月28日
日本に関連した記事を集めたコーナー「ジャパンリトラクションズ」に2017年中(1月1日~12月25日)に投稿された記事は18本。それを見ながら今年の日本の研究不正を振り返ってみたい。
18本のうちの5本が「骨の研究者」として紹介されている佐藤能啓(よしひろ)元弘前大医学部教授(故人)の論文不正に関する記事だ。この件は日本の新聞ではほとんど報道されていないが、朝日新聞11月16日付朝刊青森県版で弘前大の調査結果が伝えられているので、まずはこの記事の概略を紹介しよう。
佐藤元教授は2000年11月から03年3月まで弘前大に在籍し、その後に福岡県内の病院に移り、17年1月に64歳で死去した。米国の専門誌が16年6月に元教授の論文3本を取り下げたことなどから問題が発覚、大学が調査委員会を設置して調べ、14本の研究論文にデータ捏造などの不正があったと認定した。調査対象は38本、ビタミン製剤が骨折予防にどう役立つかなどがテーマ。13本に症例数の水増しなどのデータの捏造と不適切な共著者の表示があり、1本に二重投稿があったと認定された。
リトラクションウォッチは、福岡県の見立病院(田川市)の佐藤能啓医師の論文不正として取り上げ、4月18日「さらに2本撤回」4月25日「2015年から合計14本に」9月12日「17本に」12月6日「23本に」と撤回論文数が増えるたびに報じた。8月11日は米国医師会雑誌(JAMA)がこれら撤回された論文の関連記事を読むときの注意を掲載したことを伝えている。
リトラクションウォッチが複数回取り上げたもう一つの不正が、日本麻酔科学会から「永久追放」とされた斎藤祐司医師の問題だ。「有名な不正研究者の藤井善隆医師の共著者」と紹介し、6月6日の記事で日本麻酔科学会の理事会声明を、さらに、10月9日の記事で学会が論文9本の撤回を勧告したことを報じた。
「有名な不正研究者」とされた医師のことは、朝日新聞2012年6月30日朝刊が以下のように伝えている。
日本麻酔科学会は29日、学会員で東邦大学元准教授の藤井善隆医師(52)が1990~2011年に国内外の専門誌に発表した研究論文計212本のうち少なくとも172本が捏造(ねつぞう)だったとする調査結果を発表した。学会は「医学論文の捏造件数としては過去最大規模」としている。
論文の多くは、麻酔手術後に起こる吐き気の予防薬に関するもの。2月に海外の専門誌が捏造の疑いを指摘。学会が3月から藤井医師や論文の共著者、在籍した大学や病院5施設などに聞き取りをしていた。
調査対象の論文は212本。うち172本が捏造で、37本は判断できる情報が得られなかった。3本は捏造ではなかった。また、212本のうち200本で55人の共著者がいたが、ほとんどは研究に関わっていなかったり、名前を勝手に使われたりしていた。
学会は「研究対象の症例や動物が実在し、研究を実施したのは初期の論文のみ」と指摘し、大多数は症例が1例も存在せず「机上の論文」と結論づけた。捏造とされた論文は他の文献に計1800回引用されているが「論文に記載された薬は強いものでなく、他の研究者が論文を参考に投与しても健康を害するものではない」としている。
藤井医師は調査に対して「捏造は一本もしていない」と話しているという。藤井医師は筑波大、東邦大に在籍し、茨城県などの病院で勤務。東邦大は2月、藤井医師が在籍中に発表した論文の研究手続きに倫理規範違反があったとして、諭旨退職処分にしている。
斎藤医師に関する日本麻酔科学会理事会の声明(2017年5月9日付)は、「調査対象とした約40編のうち」「データの改ざんまたは捏造がほぼ確実に判定できる数編」「研究倫理的に著しい問題があると回される論文が数編」あることが判明したとし、斎藤医師からすでに出ている退会届は「受理せざるを得ない」としつつ、「麻酔科医師、研究者としての資質に著しく欠ける」と判断したので「永久に本学会への再入会を認めない」と言明した。
以上の2件以外の記事は1回限りの登場だ。1月6日「日本のグループが調査を受けて4回目の論文撤回」は大分大学医学部麻酔科学講座元講師の案件で、こうした日本の研究機関所属の研究者の論文撤回が東京大学分子細胞生物学研究所の渡辺嘉典教授の件をはじめ
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