財政、税金、市民生活の日独比較【その1】
2018年01月09日
税金の高いドイツに住みながら税金の低い日本より住みやすいことを実感している。ドイツは高い税金でも生活費は安く、税金が市民の生活を豊かにし未来に不安のない生活を保証していることが実感できる。2回に分けて日本とドイツの国家財政や税金、国民の税への意識や生活感覚の違いを報告したい。まずは、日本について考察してみた。
我が国の国家予算(歳入・歳出)と税収を調べてみよう。予算の区分には、さまざまな施策を一つの会計にまとめて全体を把握しやすくした「一般会計」と、そこから切り離して特定の歳入源にもとづく事業や資金運用を管理する「特別会計」がある。特別会計は各省庁が所管する。例えば会社員などが給料から天引きされている年金の保険料は、厚労省が管轄する「年金特別会計」の歳入となり、年間の予算規模は57兆円。
平成28年度の特別会計は総額404兆円であり、一般会計との合計は504兆円だそうだ。しかし、これではGDPと同額になる。実際には特別会計同士や一般会計との取引があるので、重複を除いた正味の額として「純計」がある。私には故意に国民にわかりにくくしている、としか思えない。何故このような複雑な特別会計が存在するのか。実は、特別会計は単一予算主義の原則に反しており、戦前、陸軍・海軍の予算を秘匿するために導入されていた経緯がある。それが、戦い敗れても、霞が関には生き残っている。一方、ドイツ連邦予算は単一でわかりやすい。
図1にあるように平成28年度の純計予算は一般会計95兆円と特別会計151兆円を合わせ246兆円である。国債関連の97兆円を引いた約150兆円が政府の事業費の総額と思えば良い。GDPが約500兆円であるからその3割が何らかの経路を通して国の予算になる。この150兆円の内、歳出として社会保障が86兆円で約6割を占める。残りはわずか4割、64兆円でしかない。
社会保障には年金・医療・介護福祉があり、図2に3項目の支出の年推移を示す。「福祉元年」と謳われた1973年から歳出の急激な伸びは既に100兆円を越えている。
国債などの借入金を引いた国家の総収入(所得税18兆円、法人税12兆円、消費税17兆円の合計が58兆で、その他は特別会計関連)を比較すると、日本の150兆円に対してドイツは170兆円である。これを人口で割って一人当たりの税金関連の支出とすると、日本が115万円/人、ドイツが210万円/人となる。日本人はドイツ人の約5.4割しか納税していない。
一般会計の税収と歳出の推移を図3に示す。誰が見ても不自然なのが
1. 平成2年(1990年)から下降・停滞した税収。
2. それにもかかわらず伸び続けた歳出
3. 過去約20年間、税収は歳出の半分にしか過ぎない
4. その差を埋めるための多額の借金、財政赤字の深刻化
政府・官僚の放漫な国家運営を国民が長期に監視し、国の破綻を防ぐためには、初等・中等教育おける税金についての教育が必要である。その際、理念として「自分を育ててくれた国への貢献」、「より良い次世代実現への投資」などを育むべきだ。憲法に「税を払う義務」が明記されているのだから、その義務の精神を納税者として自覚できる教育が必要である。ドイツの友人と話すと納税への自覚をすらりと話してくれる。
ドイツとさらに大きく異なるのは、日本の長期債務残高の1000兆円である。国民一人当たり約800万円の借金している勘定だ。が、この借金を返済する目処が未だに立たない。「いや政府が保有する資産が約700兆円あるから大丈夫だ」などという評論家もいる。しかし、資産を売却すれば政府が機能しなくなる。どうして国を運営するというのだろう。現実には不可能である。
日本人の個人資産は1800兆円で内900兆円が貯金と言われている。政府は日本国民の貯蓄を債券という形で銀行から無担保融資を受けていることになる。日本人は悲観的。だから万一のために貯蓄をする。ドイツ人は貯蓄より今を楽しむことに金を使う。人生をエンジョイする。
今回の総選挙の争点の一つは消費税8%から10%への増税であった。当初は赤字財政健全化、つまり2%の消費税増で期待される約5兆円の税収入で債務の返済を予定していた。しかし、選挙前に突然、保育の無料化などに当てると変更になった。確かに5兆円で健全化を図っても完済には200年かかる。
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