プロジェクト1年目は大成功、次はスペイン語で講演できるようがんばるぞ
2018年02月15日
コロンブスが1492年に発見し、こよなく愛した国、ドミニカ共和国は、キューバの隣のカリブ海の小さな島にある。サミー・ソーサーをはじめ、素晴しいベースボールプレイヤーが輩出した野球強国であり、今年の元旦の朝日新聞で、15歳の幸福度が世界で一番高い国として紹介されていたことでご記憶の方もいるだろう。これは2015年度の学習到達度調査(PISA)の一環として調べた結果で、生活に満足している割合が47カ国・地域で一番高かったという。記事は「経済成長率は6.6%で3年連続、中南米カリブ地域のトップだが、経済的に苦しい人が少なくない。2017年の世論調査で国民の42%が『3年以内に国を出たい』と答えた。教育政策も十分行き届いているとは言えない。PISAでは、数学と科学部門で72カ国・地域で最下位だった」とも紹介した。
この国に昨年行ってきたので、その経緯及び見てきたこと、感じたことについてお伝えしよう。
その後の関係者の協議を経て、3年計画の数学支援プロジェクトが2017年から始まった。1年目の目標は「数学の面白さや有用性を伝え、多くの人に数学に関心を持ってもらうこと」で、首都に数学博物館をつくることなどが決まった。そこに展示する作品の制作とそれらのスペイン語の解説書の準備及び、各種の数学講演をするのが私の任務となった。
春になって桜が咲いていたころ、牧内大使が日本に一時帰国された。その期間、大使は、大学ノートと筆記具を携えて東京理科大の数学体験館にしばしば現れた。新しくつくる数学博物館に展示する作品がどんなものなのかをひとつずつ自分の目で確かめ、それらの数学的な背景を学びに来ていたのだ。大使がバルセロナ総領事だった時から気さくで自ら行動する人だという印象は持っていたのだが、毎日のように勉強しに来る熱意と真剣さに、まだノンビリと構えていた私は、性根を正される思いだった。
テキストの作成では、JICAのボランティアの先生たちが現地の様子やレベルを詳しく調査して送ってくださったレポートが大いに役立った。外務省のカリブ課の職員やドミンゲス駐日大使やサラディン参事官も幾度となく大学に足を運んでくれて、様々な段取りや連絡、手続きをクリアしていった。8月中旬に全作品を梱包して、コンテナ船で送り出した。
だが、船の航行が遅れているという連絡が来た。それも、何度も。カリブ海を猛烈なハリケーンが襲ったというニュースを聞く度に肝を冷やした。その頃、なぜか自分でヨットに作品を載せてカリブに向かっている夢を見た。海賊に襲われて、「あー、ダメだぁ」と思った瞬間目が覚める。結局、荷物の到着が予定より大幅に遅れて、数学博物館の当初の開館予定日に間に合わないことになり、開館も私の滞在日程も急遽、1ヶ月先に延ばすことになった。
「禍い転じて福と成す」という言葉が好きだが、突然間延びしてできた時間をスペイン語の速習に当てることにした。少しでも使って親近感を持ってもらいたいと思ったからだ。文法から正式に学んでいる時間はないので、自己紹介と3分間スピーチと旅行者用の簡単会話をマスターする目標を立てた。数回ペルー人の先生に来てもらってスピーチ文をスペイン語に訳してもらい、発音も教えてもらった。学生の時以来の丸暗記勉強で、余計な事は考えずに、自分は九官鳥になったつもりで覚えた。
11月24日、遂にドミニカ共和国に到着した。
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