禁煙できない人たちを非難せず、害の少ないものに誘導する考え方
2018年02月05日
日本では、麻薬、覚せい剤などの薬物の自己使用は、薬物関連法規(覚せい剤取締法、毒物・劇薬取締法、麻薬・向神経薬取締法、大麻取締法、医薬品機器等法)のもとで犯罪とされ、懲役刑を科し刑務所に収容して使わないことを強制している。しかし、主としてヨーロッパの国々で、厳罰主義が逆に薬物による社会的な害を大きくしているという認識のもと、刑事司法中心の政策から脱却し、健康及び社会的な支援を優先する政策への変革が行われ、成果を挙げている。このことは、WEBRONZAでも「麻薬政策のコペルニクス的転回 『ハームリダクション(害の軽減)』と『非犯罪化』」(高橋真理子、2016年09月07日)などで紹介され、また、「薬物問題に対する、あるひとつの社会的選択」との副題がつけられた最近の単行本「ハームリダクションとは何か」(松本俊彦ら編著、中外医学社、2017年8月)でも詳しく説明されている。
こうした政策転換のきっかけは、HIVや肝炎ウイルスなどによる病気の出現である。感染症は社会全体の問題であり、薬物使用による感染症拡大を防ぐことが重要であるとして、注射薬物使用者に対するサービスともいえる注射器・針交換プログラムや経口のオピオイド代替療法などが行われるようになった。これらの有効性は科学的に実証され、2016年までに注射器・針交換プログラムは90か国で、オピオイド代替療法は80か国で導入されているとのことである。
たばこも薬物の1種ではあるが、喫煙者に懲役刑を科して禁煙を強制することはない。しかし、日本の男性の喫煙率は先進国の中で群を抜いて高く、1年間に能動喫煙によって約13万人,受動喫煙によって 約 1.5万人もが死亡していると推計されている。これは社会全体の問題であり、この害を減らす「たばこハームリダクション」を考えるべきである。
その歴史は、英国の精神科医で禁煙治療の第一人者であったマイケル・ラッセルが「人はニコチンを求めて喫煙し、タールのために死ぬ」(BMJ, 1976年)と書いた時から始まる。それなら有害なタールをなくせばいいと、1978年にニコチンガムが開発された。筆者は、1987年11月に東京で開かれた「第6回喫煙と健康世界会議」に参加したラッセル博士を大阪に招いて講演してもらった時から、たばこハームリダクションに関心を持ってきた。
ニコチンを体内にいれる手段はいろいろ開発されてきたが、それらの害がどのくらい違うのかを知るのに参考になるのが、図1だ。インペリアル・カレッジ・ロンドン脳科学部門のデビット・ナット 教授らの研究結果(2014年)に基づくものだ。これは、2013年7月ロンドンで開催した2日間のワークショップで12人の専門家が電子たばこをはじめ12種類のたばこ製品の害を評価した結果で、評価の手法は薬物の副作用の推定でよく使う確立した研究手法である。だが、実際の追跡調査により健康への害を評価したものではないので、その意味では正確に評価したものということはできない。もっとも、追跡調査の結果を得るには今後10年単位の時間が必要であり、現段階では大まかな害の指標として一番信頼できるものだ。
スヌースはスウェーデンで広まった。とくに男性に広く使用されてきた結果としてスウェーデンでは男性の喫煙率と肺がんなど喫煙関連疾患の死亡率が欧州の中で最も低いという事実がある。2016年の毎日喫煙率は
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