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終末時計が示す「人類滅亡まで2分」の意味

トランプ政権の核兵器政策と、北朝鮮ミサイル実験、そして核兵器禁止条約

鈴木達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授

 米科学雑誌「ブレティン・オブ・アトミック・サイエンティスト」は、2018年1月25日、最新の「終末時計」を発表した。午前零時の地球の滅亡まで、残された時間がどれだけあるかを示す概念時計だ。2017年に「2分半」の残り時間を示していた針は、30秒早められて「2分」となった。これは、米ソ冷戦のピークであった1953年以来の短い残り時間である。

 はたして、何が最も深刻な要因なのか? それを防ぐために我々は何ができるのか? 最近報じられた米国のあらたな「核態勢見直し」や、ノーベル平和賞受賞団体「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長が来日した際の発言なども踏まえて、この終末時計の意味を考えてみたい。

「終末時計」の由来と経緯

 終末時計を発表している「ブレティン・オブ・アトミック・サイエンティスト」は1945年、米国の「マンハッタン計画」に参加して核兵器を開発していた科学者によって、シカゴ大学にて設立された。その目的は、核兵器のもたらす脅威を一般市民に分かりやすく説明することにあった。人類と地球を滅ぼしかねない核兵器の脅威をわかりやすく社会に伝えるため、終末時計が考案され、1947年に初めて発表された時は「7分前」であった。その後、この針を動かすのは、科学者を中心とする「科学・安全保障に関する委員会」が毎年、議論して決めてきた。

時計の針を戻すことはできるのか
 これまでで午前零時に最も近づいた1953年は、前年の米国水爆核実験に続いて、ソ連が水爆実験を実施した年だ。1949年の「3分前」から1分短縮された。逆に午前零時から最も離れたのは1991年。冷戦が終了して、米・ロで初めての戦略核兵器削減協定(START)の交渉が開始され、両国とも核兵器の数を一方的に削減することが発表されたことが大きな要因となった。その後、インドとパキスタンの核実験(98年)、北朝鮮の核実験(2006年)と徐々に時計の針は進み、オバマ大統領の就任で一時的に後戻りしたものの、気候変動対策の遅れなどもあって、2015年には3分前に、そして昨年はトランプ政権の誕生と北朝鮮の核開発進展で、2分半前までに短縮されていた。

「意図的であれ、誤判断によるものであれ、核兵器が使用されるかもしれないリスクが、昨年は世界全体で高くなった」(終末時計解説「受け入れがたい核の脅威」より)

 今回の終末時計で強調されているのが、この「核使用」のリスクである。

「核兵器の使用」が明確な核戦に

 まず挙げられているのが北朝鮮である。この1年間で、北朝鮮は単なる「核爆弾」から、長距離ミサイルにも搭載可能な核弾頭の小型化、さらには大陸弾道ミサイルの開発を進めてきた。これに対し、米国とその同盟国である日韓は、共同軍事演習拡大など軍事的圧力を高め、核兵器使用を含むすべてのオプションを堅持することを明らかにした。さらに、ロシアとの関係悪化や中国核戦力の強化、インド・パキスタンの核戦力増強など、核兵器をめぐる環境は改善されるどころか、さらに悪化している、という判断だ。

世界は滅亡へと近づいているのか
 そこに、さらに輪をかけて心配な要素が飛び出した。2月2日に公表された米トランプ政権の「核態勢見直し」(Nuclear Posture Review:NPR)である。全米科学者連盟(FAS)の専門家が、1月に漏洩されたこの「核態勢見直し」の原案を詳細に分析し、オバマ政権が取り組んできた「核兵器の役割を減少させる」政策を180度転換させて、具体的に「核兵器の使用」を明確にした核戦略を打ち出している点が明らかにされている。
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