吉田弘幸(よしだ・ひろゆき) 予備校講師
早稲田大学理工学部物理学科卒業、早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了、慶応大学法科大学院修了。河合塾やSEGなど大学受験の予備校・学習塾の物理と数学の講師を1988年から続けている。国際物理オリンピック日本委員会委員として日本から派遣する選手の選考・研修にも携わっている。2014年にはカザフスタン大会に同行役員として参加した。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
「もっと早く対応していれば」という悔い、「これで良かったのか」という戸惑い
私は昨年8月に大阪大学に物理の入試問題の不備を指摘するメールを送った予備校講師である。このとき阪大からは返信すらなかった。受験生の合否に関わる問題なので放っておくわけにはいかないと考え、文部科学省へも対応を要請した。文科省からの返信は頂いたものの事態は動かなかった。年が明けて1月6日になり状況が急展開し、阪大がミスを認め、30人の追加合格を決定した。その後の動きは大きく報道されているので周知のことと思う。報道によれば、昨年12月に「物理に造詣の深い方」、おそらく名のある大学の教授あるいは元教授の方から再度の指摘があり、大学が調査を始めたそうだ。つまり、私の指摘は半年近く放置されていたわけである。
この点について言いたいことはいろいろあるが、振り返ってみると私にもいくつか反省すべき点があった。その反省点や葛藤をこれから書いてみたい。
もともと、大阪大学の問題に違和感を持ったのは、昨年3月の時点だった。各予備校が発表している解答速報の結論が割れていた。自分の所属する予備校にも、そのことを知らせたが、その段階では出題ミスとは気付かずに(実は現在でも客観的には出題ミスではないと思っている)、単に自分の勤務する予備校の解答が間違っているだけだと思っていた。このときに、予備校に真剣な対応を強く求め、私自身もより慎重に問題を分析していれば、昨年の入学式前にミスが判明して追加合格者の発表もできた可能性もあり、中途半端な対応をしたことを非常に後悔している。
いま述べたこととも関連するが、私が個人の立場で大学と交渉したことも、おそらく解決を遅らせてしまった原因である。勤務校を説得して、予備校として問い合わせをしていれば、大学も初めから誠実な対応をとったかも知れない。今回の報道を見た、元同僚で現在は大学で教鞭をとっている方からも「予備校講師」という肩書きの曖昧さを指摘された。具体的な予備校の名称を背負っていれば、もう少し違った結果になったであろう。
結局、昨年3月の時点では予備校間で解答が食い違っていることを勤務校に指摘しただけだった。
8月になり臨時で担当する夏期講習の教材として、その問題を採用した。予備校の先生でも間違えるくらいならば、受験生には良い教材になると考えたからである。そして、授業の準備として詳細に検討しながら解いてみると、連続する2つの問いに不整合があり、もしかすると出題者に勘違いがあるかも知れないと考え、すぐに大阪大学へ問い合わせた。思いがけず、大学からは採点時の「正解」が回答された。
それを見て採点ミスを確信し、大学に採点ミスの可能性を指摘するとともに、文部科学省にも対応を促すように要請した。これに対する反応は前述の通りである。
大阪大学の件が大きく報道されると、やはり予備校で物理を教えている友人から京都大学の問題にも疑義があると教えてもらった。京大の問題は、