日本のがん統計の正確さも上がってきたが、いまだ課題も
2018年03月01日
経済協力開発機構(OECD)が昨年11月に発表した「図表でみる医療(Health at a Glance)2017」 の第6章「保健医療の質とアウトカム」には、世界の38か国(OECD加盟35か国中の31か国とパートナー7か国)の2010ー2014年に診断された乳がん、大腸がん、小児の急性リンパ芽球性白血病の3つの5 年相対生存率が国別に示されている。
生存率は、がん対策を評価する際の重要な指標である。このほか、がん罹患率、がん死亡率も、評価の重要な指標となる。神経芽腫や前立腺がん、甲状腺がんのように検診による過剰診断の問題があるときには、生存率だけでなく、罹患率、死亡率と合わせて対策の効果を判断する必要がある。一方、OECDが取り上げたがんについては、生存率の高さがその国の診療レベルの高さを反映していると考えてよい。
表1に日本、英国、米国、OECD加盟31か国のデータを示した。なお、この生存率は、ピリオド方式(後述)による推計値である。日本の診療レベルは国際的にみておおむね高いレベルにあることがわかる。ただし、白血病は38カ国中21位とふるわない。
ここに示されたがん生存率の国際比較のデータは、CONCORD プログラム(主任研究者:ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のミシェル・コールマン教授)によるものだ。名称「コンコルド」は、英国とフランスが共同開発し、1976年から英国・フランスと米国間を定期運航した超音速ジェット旅客機の名称に由来する。乳がん及び大腸がんの生存率がヨーロッパでは米国に比して低いのではないかという問題提起から出発し、その後発展して全世界的な共同研究となった。これまで2008年にCONCORD study(31か国の101登録室が参加)、2015年にCONCORD-2 study(67か国の279登録室が参加)、2018年にCONCORD-3 study(71か国の322登録室が参加)の結果が各々まとめられて英国の医学雑誌Lancetに報告されている。
参考までに、日本の2000ー2004年診断および2005ー2009年診断がん患者の生存率もあわせて表2に示して生存率の推移を見た。これらはコホート方式(後述)による計測値で、ピリオド方式による2010-2014年の数値と直接の比較はできないものだが、日本の診療レベルは年とともに向上してきていると理解して構わないだろう。
こうした統計数値を出すために必要なのが、がん登録である。CONCORD-3 studyに参加した71か国のうち、41か国に全国レベルのがん登録システムがあった。日本は、2013年12月に成立したがん登録推進法が2016年から施行されて、ようやく全国がん登録の仕組みが整備されたという「がん登録後進国」だ。
それでも日本がCONCORDプログラムに当初から参加できたのは、大阪府などで自治体レベルの地域がん登録システムを早くから構築していたからだ。宮城県、広島市、長崎市、愛知県、神奈川県なども早くから取り組んでいた。筆者は大阪府で長年がん登録にかかわってきたが、法律ができる前はさまざまな困難に直面した。とくに困ったのが登録漏れの存在である。もう一つ、がん患者の生死を確認する追跡調査にも苦労した。
医療機関からがんの届け出票が提出されず、死亡情報で初めてがんを把握し、補充届け出を死亡診断書を作成した医療機関に依頼しても提出されないものDCO(Death Certificate Only=死亡診断書のみ)という。この割合が大阪府がん登録の場合、Concord-3 studyに提出した2000-2008年診断患者のデータにおいて12.1%あった。DCOの割合が大きい場合には、生存率を計測する対象に偏りがあると考えなければならない。
がん患者の追跡調査は、
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