地下鉄もバスも使えない街で、パラリンピックとはおこがましい
2018年03月06日
東京では2020年のパラリンピックに向けて道路・鉄道や施設のバリアフリー化が進んでいる。それは究極的には高齢化社会への対応を想定しているはずで、身障者だけでなく高齢者の使いやすさもポイントとなろう。では、いまの「バリアフリー」は本当に役に立っているのか? あるいは将来計画は本当に最適化されているのか?
私は16年前から介護を必要とする身障者で、かなり回復した今でも車椅子や歩行器がないと移動できない。その視点で見ると、現状は未だに不備だらけだ。中には古い間違った知識に基づいた設計で、改悪となるような「バリアフリー化」も多い。その原因を考えると、「身障者の多様さ」と「高校レベルの力学」という2つの問題の理解が、福祉関係者に欠けているからだと思われる。
先日、東京を訪れた際に遭遇したトラブルをもとに、間違いだらけの身障者対策について議論したい。
去る1月11日、私は都営大江戸線で蔵前から本郷三丁目まで移動した。都営地下鉄では最も新しい路線で、全ての駅にエレベーターがある。しかし、本郷三丁目に到着した際に、いきなり「エレベーターは使えません。エスカレーターをどうぞ」と駅員に言われたのである。3月まで更新工事で動かないとのことだ。
これでは「東京でパラリンピックなんて無理だ」と思ってしまう。もしかしたら「エレベーターがなくても、エスカレーターが動けば身障者や高齢者は困らない」と誤解していないか。身障者や老人にとってエスカレーターは、「巻き込まれ転倒」やドミノ倒しのリスクがある最も危険な移動手段だ。乗り口や降り口では「速度が異なる足場への移動」という、人間本来の機能にない身体反応が要求される。だからこそ、子供をエスカレーターに乗せる時、保護者は注意を払うのではないか。
エスカレーターしかない施設は、決して「バリアフリー」ではない。それどころか、身障者にとって最悪の施設にもなりうる。エスカレーターがあるからと階段がおろそかになり、介護の手助けがあればゆっくりと移動できる人まで排除されかねないのだ。地下鉄大江戸線での体験は、「エスカレーターは身障者にとっては凶器」という「常識」さえ関係者が理解していないことを示していた。
駅や路線ごとのエレベーターの有無をあらかじめ調べるのも大変だ。なぜ路線図にマークがないのだろうか? ロンドンの地下鉄マップには、そのような情報があり、目的地に一番近い「バリアフリーの駅」がどこにあるか一目で分かる。
より深刻な問題は、身障者にとって地下鉄への出入り口が事実上「隠されている」ことだ。私は以前、福岡市の中心街で地下鉄に乗ろうとして、エレベーターを20分以上も探したが見つからず、諦めたことがある。どの階段の入り口にもエレベーターの位置が示されておらず、地域の地図にも載っていなかったからだ。東京でも1年前に初めて乗った駅はどこもわからず、10分近くうろうろして、結局、交番や店に尋ねた。まるで「旅行者は地下鉄を使うな」と言われている印象だ。欧州の他の都市でこのような目に会ったことはない。
東京ではJRや私鉄にも乗った。もちろんラッシュ時間を避けて、一駅も乗れば席が空くような時間帯にした。だからだろう、私鉄や地下鉄では、歩行器を使って介護者が手助けしている私に席を譲る人が必ず複数いた。
これもパラリンピックの不安の種だ。乗客のマナーが一朝一夕で直るはずもない。対策としては、来日する訪問者への手引きに「身障者や具合の悪い人は、座っている人に声をかけて下さい」と書くしかあるまい。世界から笑いものにされても、マナー頼みでは解決しないだろう。
一つ、方法がある。身障者用シートの高さを凸凹にして高い席を設けて目立たせることだ。
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