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高校学習指導要領の改訂案がおもしろい

中教審の方針が「統計的内容をもっとやれ」だった

奥村晴彦 三重大学名誉教授・教育学部特任教授

 2018年2月14日に公示された高等学校学習指導要領の改訂案がおもしろい。これが決まれば、2022年度から年次進行で実施される。ただ、「数学での統計教育は不要」といった批判もある(例えば小島寛之氏のWEBRONZA「高校数学での統計学必修化は間違っている」)。

「データの分析」は前回の改訂で入った

 必履修(ひつりしゅう)科目の「数学I」に「データの分析」が入ったのは、前回(2009年に公示)の改訂、つまり現行の学習指導要領からである。

 「必履修」という言葉は耳慣れないかもしれないが、高校では「履修」と「修得」を区別する。「履修」は一定回数以上出席すること、「修得」は5段階評定で「1」が付かないことである。「数学I」は全員が履修しなければならない。

拡大今年のセンター試験の様子=2018年1月13日、名古屋大学、吉本美奈子撮影

 現行学習指導要領で学んだ最初の高校生が受験した2015年のセンター試験から、「データの分析」は必答問題になった。2015年のセンター試験の「数学I」は、「データの分析」を扱った第4問が、全11ページ中5ページを占めた。「数学I・数学A」は、「データの分析」を扱った第3問が必答問題8ページ中4ページを占めた。2015年は架空のデータが使われていたが、2016年からは実際の統計データを使った興味ある問題が出されるようになった。

 中学数学でも、前回(2008年に公示)の改訂、つまり現行学習指導要領で、それまでまったく消えていた「資料の活用」がすべての学年で復活した。これも画期的なことであった。

 それでは、なぜ今、統計教育が批判されているのか。

今回の改訂案ではベクトルが3年に

 今回の改訂案をまとめたのが次の図である。

拡大高校の教科「数学」を構成する科目。赤が統計分野。青は現行「数学活用」由来の単元。

 「数学」という「教科」は、「数学I」「数学II」「数学III」「数学A」「数学B」などの「科目」からできている。このうち必履修は「数学I」だけである。他は必履修ではないが、いわゆる受験校では文系でも「数学II」「数学B」まで、理系は「数学活用」以外のすべてを履修する。これらのうち、「数学I」「数学II」「数学III」の3科目は、図に示したすべての内容を扱うが、「数学A」「数学B」「数学C」では、それぞれ3つの内容から適宜選択する。例えば現行「数学B」では、「数列」「ベクトル」だけ教えれば、「確率分布と統計的な推測」は扱わないでよい。

 今回の改訂のポイントは、ほとんど開設されていなかった「数学活用」を廃止し、代わりに「数学C」を新設したことである(以前の学習指導要領にも「数学C」はあったが、内容はまったく異なる)。現「数学III」(標準単位数5)が新「数学III」(標準単位数3)と新「数学C」(標準単位数2)に分かれたと見ることもできる。

拡大小さい方から並べて25%の位置が第1四分位数(しぶんいすう)、50%の位置が中央値、75%の位置が第3四分位数。これらを図のように「箱」で表し、最小値と最大値まで「ひげ」を伸ばしたものが箱ひげ図である。

 そして、ベクトルが「数学C」に移った。理系の3年生が習う4つの単元が5つに増えることになる。一方、従来「数学B」で「数列」「ベクトル」を教えていたところが「数列」「統計的な推測」を教えることになれば、「数学B」止まりの文系は「ベクトル」を学ばずに高校を卒業する。このため、「統計がベクトルを追い出した」と非難されることになった。「数学A」でも、「整数」がなくなったので、「図形」「確率」を教えることになる。

 なお、今回の改訂(小中学校は決定済み)では、高校数学Iから四分位数、箱ひげ図が、中学2年の数学に降りていった。代わりに高校数学Iの改訂案に入ったのは、「コンピュータなどの情報機器を用いるなど」という文言と、「具体的な事象において仮説検定の考え方を理解すること」である。

中教審答申も読もう

 今回の学習指導要領改訂の考え方は、中央教育審議会(中教審)2016年12月21日の答申に示されている。ここで、 ・・・ログインして読む
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筆者

奥村晴彦

奥村晴彦(おくむら・はるひこ) 三重大学名誉教授・教育学部特任教授

名古屋大学理学部物理学科修士課程修了、総合研究大学院大学で博士号(学術)取得。高校教員(数学)、松阪大学助教授・教授、三重大学教育学部教授を経て、2017年定年退職後,特任教授。現在の専門は情報教育。コンピューター関係の著書多数、統計関係の著書3冊、高校数学教科書・高校情報教科書も執筆。