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化石燃料黄金時代の再来という見果てぬ夢

石油・天然ガス優遇のインフラ投資をもくろむトランプ大統領

西村六善 日本国際問題研究所客員研究員

 1兆5000億ドル規模のトランプ政権のインフラ建設計画は、米国内外で大きく注目されてきた。

 米国にとっては、老朽化したインフラを近代化し、生産性を向上させ、米国を再度偉大にする可能性がある。その過程で大きな需要を生み、技術革新を進め、雇用を増大する。トランプ大統領の税制改革やエネルギー政策などと並び、国際的にもインパクトが大きいし、日本でもここに商機を確保しようとする動きが強い。

 2月、トランプ大統領はその計画を発表したが、米国内での評価は分かれている。少なくとも全国的な支持を集めるには至っていない。それどころか専門家や主要メディアは深刻な問題点を指摘している。クルーグマン教授は「これは詐欺師のやり口だ」(scam)と酷評した。本当に、ハイウェーや高速鉄道、橋、港湾、空港、学校、病院などの建設はトランプ政権の下で進行するのか? むしろ疑問が募っている。

ホワイトハウスのトランプ米大統領=2018年3月6日、ワシントン、ランハム裕子撮影拡大ホワイトハウスのトランプ米大統領=2018年3月6日、ワシントン、ランハム裕子撮影

公的資金の問題

 一番の問題は公的資金だ。トランプ大統領の提案では、10年間で1兆5000億ドルの投資をするというが、そのうち、連邦政府が受け持つ公的資金はわずか2000億ドルだ。約8倍のカネを州、都市、民間企業からの金で賄う計画だ。

 しかし、ペンシルベニア大学の有名なウォートン・ビジネス・スクールの分析では、これによって誘発される州と民間の資金は精々300億ドルだという。つまり合計で2300億ドルの事業規模にとどまるというのだ。しかもGDPへのインパクトはほぼゼロだという。これがクルーグマン教授の「詐欺師論」の基礎だ。アメリカのメディアは「計画の98%は実行不能」という表題を掲げている。

 しかも連邦政府が受け持つ2000億ドルの確保は保証されていない。周知の通り、アメリカ政治を二分する大問題は政府の財政赤字の規模だ。小さな政府を頑強に志向する保守党の多くは、赤字財政に強硬に反対している。

 一方、政府は弱者保護とか持続成長に役割を果たすべきだ、という人々は、長期展望の下での政府借り入れに寛容だ。既に債務は20兆ドルの規模に達している上に、今回の税制改革で1兆5000億ドルの減税を実施した。強硬な財政規律派が多い共和党自体が、インフラ建設用に2000億ドルをいずこから工面するのか? 非常に深刻な問題だ。

 この困難を見越して、トランプ大統領はガロン当たり25セント増税する腹案を提示している。しかし、これには当の共和党が強く反対している。せっかく、減税したのに市民はその分ガソリン税に取られる。これでは中間選挙を控え、共和党への好意が薄れるというのだ。

 それに共和党支持で、巨費を献金している大富豪であるコーク兄弟は、直ちにガソリン税引き上げに反対した。自分たちのエネルギー事業に障害となるからだ。トランプ大統領は物事が簡単でないことを実感しているだろう。

規制緩和や民有化の有効性

 元々、トランプ大統領は、連邦資金は小さくても、規制を大々的に緩和して、州と民間から資金を集めることが出来ると主張してきた。今回の計画では、規制を大規模に緩和して、プロジェクトに迅速に着手し、訴訟を排除し、工事期間を短縮しようとしている。また、道路や橋、公共交通機関などを民有化しようとしている。税控除なども大幅に認めようとしている。

 しかし、ここでも問題が指摘されている。この計画では、ダレス空港、レーガン空港やTVA公社などの民間への売却が提案されているが、どのような合理性があるのか?説明がない。

 大規模なインフラ施設の私有化が進めば、利益を得るのは一部のアメリカ人に限られる。インフラ建設という名目で、富裕層、ウォール街がもうけるだけだという批判が巻き起こっている。

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筆者

西村六善

西村六善(にしむら・むつよし) 日本国際問題研究所客員研究員

1940年札幌市生まれ。元外務省欧亜局長。99年の経済協力開発機構(OECD)大使時代より気候変動問題に関与、2005年気候変動担当大使、07年内閣官房参与(地球温暖化問題担当)などを歴任。一貫して国連気候変動交渉と地球環境問題に関係してきた。現在は日本国際問題研究所客員研究員。

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