日本流の官民協力によるイノベーションを
2018年04月05日
人工知能、IoT、ビッグデータ……。高度化するコンピューター技術が生活のすみずみに入り込み、暮らしを変えている。生み出される大量の情報を活用して、次々と新しい製品やサービスが登場するが、牽引するのは米国企業ばかりで、日本の遅れが指摘される。セキュリティーやプライバシー面への不安も根強い。
日本はこれから「情報」とどう向き合い、生かしていくべきか。国のIT政策を担う内閣官房IT総合戦略室の八山幸司参事官に聞いた。重視するのは、政府と民間が協力した積極的なデータ活用だという。(聞き手・伊藤隆太郎)
――八山さんはこれまで、米国のIT事情について多くのレポートを書いてこられました。米国と比べて、日本の状況は遅れていますか。
IT全般で見れば、やはり米国はいろいろな意味で進んでいる。私がレポートを続けてきたのは、日本もこの問題にしっかりと向き合ってほしいからだ。決して、ものまねや後追いではなく、米国がなぜITを活用して大きな成功をおさめているのか、研究すべきだ。
――「このままではグーグルやアマゾンに利益が独占される」といった危機感を持つ人もいるでしょう。
――そもそも、ITはなぜ重要ですか。
いや、本当に大切なのは「データ」なのだ。ソサエティー5.0などと呼ばれるように、現代社会はいかにデータを集め、整理し、活用していくかが勝負になる。私たちの普段の生活をみるだけでも、それはすぐに分かるはずだ。日々の便利で豊かな暮らしを、膨大なデータ活用が支えている。
データの使い途には、二つある。一つはそれまでの仕事を効率化して、生産性を上げること。つまり労働生産性の向上だ。そしてもう一つは、データによってそれまでの不可能を可能にすること。つまりデータそのものが生み出すイノベーションだ。
これまではIT化の主流は、前者だっただろう。これからは後者が重要になる。米国の優位さも、この後者の「データ活用による新製品やサービス」が大きい。スマートフォンに代表されるように、まったく新しい製品が登場し、生活そのものを変えている。私たち日本も、データを活用したイノベーションにもっと挑むべきだ。
――米国企業が驚くほど安価なAIスピーカーを日本で販売するのも、データが欲しいからですよね。日本の遅れは深刻だと感じますが……。
しかし、勝敗が決したわけではない。米国が先行しているとはいえ、日本には固有の生活や行動の様式、ものの考え方や文化がある。それらをすべて把握して、製品やサービスを提供できるわけではない。言葉の壁もある。
――その競争を、国が支援するのですね。
多くの企業がバラバラな方向へと、やみくもに走るのではムダが多い。自動運転の開発にしても、まずは共通の課題や方向性を国が示す。そうした共通基盤を整えてこそ、民間は思う存分に競争できる。
そもそも、なぜIT活用において日本は遅れているように見えるのか。理由の一つは、個々の企業規模が小さいからだ。たとえば米国の食品流通を考えると、川上の農業から川下の販売まで、巨大な食品企業が一気通貫で押さえている。しかし日本では、小規模な生産者や流通業者がたくさんあり、互いに複雑に結びついている。だから交通整理が必要であり、政府の役割がある。
――その際には、さまざまな組織が持っているばらばらのデータをいかに結びつけるかという「リンケージ」の問題が、特に重要になりそうです。
たとえばあるデータは、住所を「○丁目○番地○号」と記しているのに、別のデータでは「○―○―○」や「○の○の○」になっている。あるいは生年月日も「○年○月○日」であったり、「○/○/○」だったりするし、元号も西暦もある。これらを結びつけるのは手間がかかる。
――気象や農作物のデータなら、プライバシー問題などは生じにくいでしょうが、では医療データのような個人情報をどう考えますか。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください