永野博(ながの・ひろし) 科学技術振興機構国際部研究主幹、日本工学アカデミー顧問
慶應義塾大学で工学部と法学部を卒業。科学技術庁に入り、ミュンヘン大学へ留学、その後、科学技術政策研究所長、科学技術振興機構理事、政策研究大学院大学教授。OECDグローバルサイエンスフォーラム議長を6年間、務めた。現在、日本工学アカデミー顧問など。著書:『世界が競う次世代リーダーの養成』、『ドイツに学ぶ科学技術政策』
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
産学連携でも起業支援でもブレない政策が成果をあげている
ドイツの科学技術政策にあって日本の政策にないもの。それは息の長さではないだろうか。同じ政策、制度が長年続くことによって確実に成果を出しているドイツと、数年で終わるプログラムを取っ替え引っ替え出していく日本との差はあまりに大きい。若手研究者支援、産学連携支援、起業支援という3つの面からみてみよう。
若手研究者の支援策でまず目を引くのがマックス・プランク学術振興協会の研究グループリーダー制度である。これは博士号取得後7年以内の若手研究者を毎年20人程度採択し、年間、35万ユーロ(約4,900万円)の資金で、良い成果を出していれば9年間支援するというものだ。その手厚さにも驚くが、さらに驚くのはこの制度が1969年以来、50年間、連綿と続いていることである。
大学にいる研究者を支援するドイツ研究振興協会は1999年、若手研究者の早期独立を支援するため、博士号取得後2~4年以内の若手研究者を年間支援額16万ユーロ(約2,200万円)で5年間支援するエミー・ネーター・プログラム(エミ―・ネーターは20世紀初めに活躍したドイツの女性数学者)を創設したが、これはマックス・プランク協会の研究グループリーダー制度を参考にしたといわれている。
欧州連合(EU)も2007年より、それまでの産業競争力強化のための研究開発を行うグループへの支援だけを行っていた研究開発支援の考え方を転換し、欧州の頭脳ともいうべき研究者個人をも支援することに舵を切った。ここでも若手研究者支援に力が入れられ、博士号取得後2年以上7年以下の若手には、5年間で150万ユーロ(約2億1千万円)、7年を超え12年以下の研究者には5年間で200万ユーロ(約2億8千万円)が支援されている。2016年度では前者で325人、後者で314人が採択された。
この若手研究者支援策はドイツのシステムと似ている。それもそのはずで、エミー・ネーター・プログラムを創設した当時のドイツ研究振興協会のヴィナカー会長が、その後、欧州連合におけるグラント創設時の事務局長に就任していたからである。よいシステムであれば、国を越えてでも伝搬し、長く続いていくことが当然と考えられているのである。
ドイツは日本のような東京一極集中型の国ではなく、地方分散型の国である。州政府がかなりの力を持ち、それを束ねる連邦政府がある。
地域の産学連携の促進という観点から連邦政府が始めたクラスター支援政策の最初のものは、
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