根絶を求めた国連7機関の合同声明文を読む
2018年03月22日
今年3月14日から15日にかけて、旧優生保護法の下で多くの障害者たちが強制的な不妊手術を受けていた問題で、政府は被害の実態調査を行う方針を固めたと各紙が伝えた。自民党と公明党によるワーキンググループが厚生労働省に全国調査を依頼し、同省はそれを受け入れるつもりであると報じられている。
政府はこれまで、当時の強制不妊手術は適法であったことから、謝罪や補償はもちろん、実態調査にも消極的だったが、その方針を少なくとも一部は転換することになりそうだ。
筆者は2017年6月、「優生保護法のもと『16歳で同意なく不妊手術』」において、被害者の声を紹介するとともに日本弁護士連合会が厚生労働大臣に謝罪や補償、実態調査を求める意見書を提出したことなどを紹介した。被害者やその支援者、研究者らはこのことを1990年代から求めてきたが、政府が動くことはなく、世間の関心も低いままだった。
しかしながら都道府県のなかには最も基本的な資料をすでに廃棄していたところもあり、早くも実態把握の限界が見え始めている。もし優生保護法が母体保護法へと改定された1996年の段階で広範な調査が行なわれていれば、避けられたかもしれない事態が起きてしまっている。
それでも今後の調査には期待したい。以下、政府が調査を実施するにあたり、あるいは国民やマスコミがそれを監視するにあたり懸念されることを、国連の声明文などを参考に指摘する。
2014年6月6日、国連人権高等弁務官事務所など国連の7機関は合同で「強制的な、強要的な、そうでないとしても非自発的な不妊手術(断種)の根絶」という声明文を発表し、「完全で自由なインフォームドコンセント」のない状態で行われる不妊手術をなくすために各国が努力することの重要性を訴えた。
まずは「強制的な、強要的な、そうでないとしても非自発的な(forced, coercive and otherwise involuntary)」という微妙な表現に注目していただきたい。日本では「強制不妊手術」といわれることが多いが、この合同声明文における微妙な表現は、たとえ形式的な同意があった場合でも、それが「非自発的な」ものである場合には問題にすべきであることを意味するように思われる。
たとえば、脳性まひの女性が過去に自ら希望して子宮摘出手術を受けたのだが、それは生理の処置などをしていた施設の職員たちから、障害者は子どもを産み育てることなんてできないので子宮なんて取ってしまったほうがいい、と毎日のように聞かされていたからであり、今では後悔している、という事例が報じられている(「毎日新聞」3月6日付ウェブ版。別人だが、同様の事例が利光惠子著『戦後日本における女性障害者への強制的な不妊手術』、立命館大学生存学研究センター、に詳述されている)。
脳性まひは優生保護法の対象になっておらず、またこの女性が受けた手術の目的は「月経管理」(後述)であって、「不良な子孫の出生」ではない。したがってこの手術は「優生手術」とはみなされず、同法の下で行われたものではないので、今後の補償などの対象にはならないと解釈される可能性がある。しかしながら、国連7機関の合同声明文が根絶すべきと主張したものには含まれるはずだ。
この手術は、強制的な不妊手術を認める法律がすでにない状態で行われたので、やはり補償などの対象にはならない可能性が高い。しかし、やはり合同声明文のいう「非自発的な不妊手術」には該当するだろう。
どちらのケースでも形式的な同意はあったはずだが、「自発的」とは言い難い。
国連の合同声明文は、不妊手術を「避妊法の一つ」として認めているものの、それは適切な医療措置や「完全で自由なインフォームドコンセント」を伴わなければ、差別や暴力の一形態になりうることを強調する。
また、そうしたインフォームドコンセントを伴わない不妊手術は女性にも男性にも行われてきたが、男性よりも女性(や少女)に偏って多く実施されてきたことを問題視する。その上で、非自発的な不妊手術の対象になってきた「特定の集団」として、「女性」と並んで「HIVとともに生きている女性」や「先住民や少数民族の少女や女性」「障害者」「トランスジェンダー(性同一性障害)やインターセックス(半陰陽)の人たち」を挙げる。
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