「取引」できれば今よりましになる
2018年04月09日
小型(30キロ未満)の太平洋クロマグロについて、水産庁が北海道と鹿児島県で7月からの漁獲枠を実質ゼロにする方針だという報道があった。激減している太平洋のクロマグロは、国際合意に基づき、2017年に極めて厳しい漁獲可能量(TAC)=漁獲枠=が国内の沖合、沿岸漁業に都道府県ごとに配分された。すると、一部地域でマグロ専獲でない定置網漁業に大量にマグロ小型魚がかかってしまい、このような事態となった。
TAC制度が日本に導入されて約20年経つが、今回のように漁獲枠を超えたのはおそらく初めてで、日本で初めて痛みの伴うTACになったといわれる。見方を変えれば、これまでの枠の実効性が疑われるわけだが、我々水産資源学者も、TAC総枠の決め方は議論してきたが、配分方法の議論が足りなかったと反省している。そこで、二酸化炭素の排出権取引のような「漁獲枠取引」の可能性を考えてみた。
マグロ小型魚の場合、魚価は沿岸の定置網のほうが沖合のまき網より高い(ただし、まき網で養殖用を生け捕りする場合を除く)。限られた資源を有効に利用するという趣旨ならば、定置網を優先するのが効率的ということになる。ただし、魚価の安い漁法だからといって、沖合の漁業者の獲る権利を一概に否定はできないだろう。
権利の配分は難問である。全体の資源が減っても大挙して来遊する地域もあり、それも年により変わる。だから、過去の実績に基づいて漁獲枠を配分してもうまくいかない。定置網にクロマグロがたくさん入ってくると、操業自粛を求められる。その場合、他の魚種を獲る利益も失う。それが妥当かという問題もある。網に入った小型マグロだけを選択的に逃がす技術開発も進んでいるが、漁業者の多くがこれを採用するのは時間がかかるだろう。
小型マグロの群れが大挙してくる場合は、海況などを見ればある程度予測できるかもしれない。枠を超えそうになってもずっと操業自粛する必要はなく、かかった後で数日間自粛すれば大量漁獲を避けられるかもしれない。だが、魚価の低い沖合漁業のために沿岸漁業がせっかくやってくるマグロを獲れないということは、社会全体で見て効率的とは言えないだろう。
そこで考えられるのが、捕獲枠の再配分または取引を認めることである。その取引に要する費用が十分安いならば、まき網は自分で獲るより高い値段で枠を売ることができ、結果として社会的に効率的な漁獲が達成できる。
現在,沖合漁業は1月-12月、沿岸漁業は7月-翌年6月の期間での漁獲量の合計を規制している。これでは調整が利きにくい沿岸漁業が後手になっている
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