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アベノミクスの目玉、異次元緩和政策の問題点

喜べない「雇用増」の実体と、日銀政策委員会という「非科学」組織

小島寛之 帝京大学経済学部教授

 安倍政権の下で始まったアベノミクスの目玉は、日銀による異次元緩和政策であった。これは、ゼロ金利の下で大量の貨幣供給を行い、人々にインフレ(物価上昇)予想を形成し、景気を刺激する政策で、リフレ政策と呼ばれる。仕組みをざっくり言えば、「お金の量を増やす」→「人々が物価上昇を予想する」→「高くなる前に欲しいモノを買おうと考える」→「消費も投資も刺激される」→「雇用が増える」ということである。

 「そんな単純な仕組みなの?」と思われるかもしれないが、一応、経済学の理論での正当化も存在する。ニューケインジアンの理論やクルーグマンの理論などがそれである。

金融緩和政策は成功か失敗か

 さて、このような理屈から、2013年以降5年にわたって実施された異次元金融緩和は成功だったのか、失敗だったのか。評価は真逆の二通りがある。

拡大再任されて続投する黒田東彦・日本銀行総裁=2018年4月9日

 第一は、インフレなど起きていないので失敗
 第二は、失業率が低下し、求人倍率が高くなったので成功

 というものだ。個人的印象では前者が優勢に思えるが、後者を主張する人もいる。しかし、インフレなど全く起きていないので、後者を支持するなら、先ほど述べたインフレ期待による景気回復という経路は否定されなければならない。何か別の「おまじない的な仕組み」で効果が生まれたのかもしれないが、それでは科学技術的な成功とは言えず、いわゆる代替医療と同水準になってしまう。

学者と国民は金融緩和をどう思った?

 金融緩和への国民の評価はどうだったろうか。ここに最近まとめられた内閣府のレポートがある(『経済分析』197号2018年)。経済学者と一般人へのアンケート調査のレポートだ。その結論では、「『ゼロ金利下の金融政策の困難さ』を意識していることがわかった」、となっている。

 具体的には、専門家の50パーセント超、一般回答者の35パーセント程度が「景気刺激は困難」と答え、最頻のパーセンテージである。面白いのは、経済理論を理解しているはずの専門家のほうが過半数も「困難」と考えていることだ。そういう意味で、この政策は代替医療っぽい(医者は否定し、一般人が信仰しやすい)と言えるだろう。

雇用増はどう解釈すればいいか

 では、「失敗」を主張する経済学者やエコノミストは、雇用の増加をどう分析しているのだろうか。

拡大雇用増を支える女性就業者の増加(総務省「労働力調査」と内閣府「国民経済計算」のデータを編集部で整理)
 基本的に、日本の労働環境の変容が原因、と考えている。例えば、大阪大学特任教授で、日本を代表するマクロ経済学の一人である小野善康氏は、著書『消費低迷と日本経済』(朝日新書)の中で、こう述べている。「アベノミクス以前の就業者数の変化は、リーマン・ショックによる男性就業者の大幅減少によるものであり、安倍政権発足直後の13年以降は男性の就業者は伸びず、もっぱら女性の就業者増が総就業者数の増加を支えていることがわかる。同時に注目すべきは、この間、実質GDPが横ばいという点である」

 小野氏のこの指摘は、2016年までについて述べたものだ。17年以降は雇用が伸びたが、男性はほぼ元に戻っただけで、純増は女性の分とほとんど一致している。氏の指摘は今でも当てはまると言えるだろう

 この現象について、小野氏はこう解釈する。すなわち、GDP(国内総生産)が増えない、ということは、仕事の総量もそれによる所得も増えないということ。その中で女性の就業者数だけが増えているということは、前と同じ量の仕事を従来の男性と新規の女性が分け合って担当するようになっている、ということだ。これは一人当たりの所得が減少することを意味する。決して、喜べる雇用増加ではないのである。小野氏は、共働き家庭が増え、深刻な保育園不足が生じていることなどを喜べない材料として指摘している。

マクロ経済学は、科学と政治の中間にある

 ここで多くの人が抱くのは、「じゃあ、マクロ経済学の理論って、いったい何なんだ」という疑問だろう。 ・・・ログインして読む
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筆者

小島寛之

小島寛之(こじま・ひろゆき) 帝京大学経済学部教授

東京大学理学部数学科卒、塾講師を経て帝京大学経済学部専任講師、同助教授、2010年から現職。経済学博士。数学エッセイスト/経済学者として著書多数。『完全独習 統計学入門』(ダイヤモンド社)は12万部超のベストセラーとなっている。

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