ジャズピアニスト山下洋輔さんら、発展を記念するコンサート
2018年04月24日
音楽の愛好家らに「音響がよい」と評価されるコンサートホールがある。ウィーンの楽友協会大ホール、 アムステルダムのコンセルトヘボウ、そしてボストンのシンフォニーホールは「世界3大ホール」とも呼ばれる。
でも、なぜこの3つなの? そもそも「よいホール」って何だろう? 違いの指標はあるのか? どうすれば建設できる?
音響学という学問がこれらの疑問に挑み、発展してきた。ジャズピアニスト山下洋輔さん(76)らは5月、そんな音響学の歩みを記念するコンサートを開く(3日午後2時から、東京都文京区のトッパンホール=電話03-5840-2222、入場料4000円)。この機会に、よい音楽ホールとは何かを音響学から考えてみたい。
単純に集計すれば「好み」の順位は決まりそうだ。でもそれが「おいしさ」の順位であるかは疑問だろう。それにもし、1カップだけ「砂糖入り」にしたら、どうなるか。そうしたら砂糖入りコーヒーが圧勝する気もする。どれが好きか、どれが甘いかは順位がついても、「どれがおいしいか」は別問題ではないか。
近代の音響学は、「よい音楽ホールとは何か」に答える術を求めて発展してきた。音響の良さを示す指標は何か。その基本理論を築いたのが、米国の物理学者ウォーレス・セイビン(1868―1919)である。ハーバード大学の研究者だったセイビンは、学内にあるフォッグ講堂の改良を任され、ほかの講堂や劇場、ホールとの比較を積み上げていく。
残響時間は、音響学において今なお最重要の指標であり続ける。だが残響があまりに長いと、音と音の区別がつきにくくなって「明瞭さ」が失われる。そこで、この音の豊かさと明瞭さが両立する「最適残響時間」が求められるようになった。
今日、最適残響時間は、ホールの用途によって異なると考えられ、またホール容積が大きいほど長くなるとされている。各種の資料から、幅広く合意されている最適残響時間を整理すると、次の通りだ。
■最適残響時間の例
キリスト教の教会音楽 1.5〜2.0秒
一般的な音楽ホール 1.0〜1.5秒
映画館や劇場など 0.7〜1.2秒
学校の講堂や会議室 0.5〜1.0秒
セイビンの研究後、他のさまざまな指標も発展した。「側方反射音」はその代表格で、横方向から届く適度な響きは音に「立体感」を与えるとされる。また、「両耳間相関度」と呼ばれる左右の聞こえ方の差は、空間的な「広がり」を生みだすという。こうした複数の指標が今日、音楽ホールの設計と評価に用いられている。
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