拡大するソーシャルサービスの本質を理解し、個人と社会それぞれが対策を
2018年05月01日
フェイスブック利用者の個人情報がデータ分析会社へ不正に流出した事件が、世界中で大きな話題になっている。マーク・ザッカーバーグCEOが米議会の公聴会で証言するまでに発展した。
筆者の専門はデジタル化による社会や産業構造の変革であり、技術の発展が与える影響について大いに関心を持っている。それだけに今回の件をめぐっては、個人情報が流出するリスクについて冷静に評価しつつ、社会変革の歩みを阻害してはならないという思いが強くある。個人情報を含めたソーシャルデータやオープンデータの活用のあり方について、考えを述べる。
2014年、英ケンブリッジ大学の教員がフェイスブック上で性格診断クイズをするアプリを作成した。クイズに回答すると、ユーザー自身とその友人に関するデータを収集するようになっていた。
問題は、このケンブリッジ大学教員が、収集した個人情報をケンブリッジ・アナリティカ(CA)というデータ分析会社に売却したことからはじまった。
CAは選挙コンサルティングも業務としており、2016年の米大統領選挙ではドナルド・トランプ陣営を支援するかたちで関わっている。ここで、性格診断クイズなどを使ってフェイスブック上で取得した個人情報を元に、さまざまな活動を展開し、トランプ氏の勝利を導いたとされている。
ケニア大統領選でも同様の問題があったという指摘がある。しかしCAは、性格診断クイズで取得した個人情報を選挙に利用したことを認めていない。
フェイスブック側では2015年の時点で、性格診断クイズによって取得された個人情報がCAに流出したことを把握していた。したがって、その時点での対応が不十分であったという批判もされている。また、今回の流出とは別に、2016年の米大統領選挙でフェイクニュースを拡散したり、ロシア政府の関連団体とみられる広告主から世論操作目的とした広告を掲載したりしたとも指摘されている。
こうしたフェイスブックをはじめとするソーシャルサービスでの個人情報の扱いの甘さや、流出時の対応の悪さについて、欧米では多くの批判が起きている。
では今回の個人情報流出における問題点とは何だろうか。いくつかの視点に分けて考えられる。
直接的な問題は、ケンブリッジ大学の教員が当時の規約に反して、商用利用を前提として、収集した個人情報を売却したことである。しかし逆に言えば、明確にルール違反であると指摘できるのは、この点だけである。
むしろ根本的な問題は、ソーシャルサービスという巨大メディアが個人情報の流出を防げなかった点にある。フェイスブックは、規約や契約などの制度面と、暗号化などの技術面の2本立てで、個人情報の保護に真摯に取り組むべきだった。この課題についてはザッカーバーグCEOも認めており、今後さまざまな取り組みが進められるだろう。
フェイスブックはいまや、世界中で21億人もが利用し、社会インフラの一部となっている。ところがザッカーバーグCEOが米ハーバード大学の学生だったときに学生寮でサービスを始めてから、まだ15年しかたっていない。CEO自身がその社会的責任と影響力に対して過小評価していたため、対応が甘くなったのではないか。
また、フェイスブック側とそのユーザーや世間との間には、データの扱いに対する期待に相違があったとも考えられる。フェイスブック側は、ユーザー情報に連動した最適なデータを活用して、かつてない魅力的なサービスを提供することが、ユーザーにとっても望ましい体験になると位置づけている。だがユーザーや世間は、個人情報の利用のされ方を自分でしっかりコントロールして、プライバシーが保護されることを求めている。この認識の違いこそ、問題がここまで大きくなった根底にあるだろう。
この間隙をどう埋めるのか。ユーザー個人がすぐに対処できることと、社会全体で議論すべきことの二つがある。
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