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自然保護と矛盾するやんばるの森の皆伐

絶滅危惧種コウモリ「22年ぶりに発見」を、簡単に喜べない理由

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 沖縄の地元紙や朝日新聞などは、2016年12月に返還された米軍北部訓練場の跡地において、絶滅危惧種のヤンバルホオヒゲコウモリが22年ぶりに発見されたと2018年4月24日付けの紙面で報じた。朗報である。

研究チームが捕獲した「ヤンバルホオヒゲコウモリ」(京都大学提供)

 しかし簡単には喜べない。発見した京都大学チームのメンバーは、「長年、森林伐採がなかったことで生息地が守られてきたのだろう」と語っているが、この発言は、間接的にではあるが沖縄県の自然保護行政の矛盾を指摘するものとなっているからである。

皮肉なことに沖縄の自然は米軍基地が存在することによって守られ、日本の統治下に入ると乱開発によって自然が破壊されると言われてきた。このため、琉球大学の伊澤雅子教授(動物生態学)は、「今回発見された地域の保全が、今後の重要な課題だ」(琉球新報2018年4月24日)と述べている。

森林伐採に抗議する沖縄の環境NGO

 沖縄県が世界自然遺産登録を目指しているやんばるは、県北部の国頭村、大宜味村、東村の三村にまたがる地域で、イタジイを中心とした亜熱帯照葉樹林が広がる森林地帯である。沖縄の環境NGOのやんばるDONぐり〜ずは、2018年4月3日に、県内外の環境保護団体・個人とともに、国頭村内で行われている森林伐採について抗議声明を発送した。また県内在住の9人は、沖縄県が国頭村の森林整備事業(2016〜18年度)に補助金を交付したのは違法などとして翁長知事らに計583万円を返還させることを県に求める住民訴訟を那覇地裁に起こしてもいる。

コウモリの発見場所

 さて、抗議声明によると、国頭村は現在3ヶ所の計4.98ヘクタールで森林伐採を行っているが、その伐採は、皆伐という草木を全て伐採して山を丸裸にする方法で、皆伐地域には1.38ヘクタールの国立公園第3種特別地域が含まれており、国立公園の指定がやんばるの自然保護に十分な有効性を発揮しているとは言えない。

やんばるは、世界自然遺産登録条件のうち、「生態系」及び「生物多様性」の項目に該当する可能性があるとされているが、皆伐が行われ続けると上記登録基準に非該当とされ、登録が困難になることは明らかである。やんばる地域の世界自然遺産登録を目指している環境省、沖縄県及び国頭村が、このような事態を容認・放置するのは、行政としては矛盾した対応である。

「やんばる型森林業」の推進に向けた施策方針

 沖縄県は、自然環境に配慮した持続可能な循環型林業・林産業と環境調和型自然体験活動を組み合わせた「やんばる型森林業」の推進に取り組むとして、2013年10月に「やんばる型森林業の推進(施策方針)」を定めている。この施策方針は、やんばるの森林をゾーニングして、自然保護と林業の調和を図るというものであるが、その実態は、保護区は全体の7%でこの場所は現時点でも既に保護されている場所が大部分である。つまり、現在の開発に規制をかけるようなものにはなっておらず、むしろ、自然保護との調和を名目に現在の開発を継続するお墨付きを作ろうとしていると見ることができる。

やんばるの森で進められる皆伐(筆者撮影)
 本土で行われる林業は、民間の林家が所有する森林を育てて収穫するという形で進められるが、やんばるの林業開発は異なる。ほぼ全ては国頭村という村が所有する森林について、立木が国頭村森林組合に払い下げされて皆伐された後、皆伐された場所を植林するというものである。植林やその後の森林施業の過程で国庫から多額の補助金が出るためその補助金目当てに伐採が行われるという悪循環に陥っているのが現状である。このため沖縄の環境NGOは、国民の血税が、自然保護のためではなく自然破壊のために使われていると見ている。
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