今年の科学技術映像祭内閣総理大臣賞「奇跡の子どもたち」のインパクト
2018年05月21日
毎年4月に表彰式がある科学技術映像祭で、今年は生まれつきの難病をもった子どもたちと家族の日常を10年間追ったドキュメンタリーが最高賞に選ばれた。大事な酵素をつくる遺伝子がないため歩くことさえできなかった子どもたちが、遺伝子治療を受けてから少しずつ自分の意思で手足を動かせるようになる。科学技術の話は前面に出てこないが、遺伝子治療の効果に圧倒される映画だ。私自身、これまで持っていた遺伝子治療に対する認識、つまり「期待されたほどの効果はない」という考えを改めることになった。
「奇跡の子どもたち~寝たきりの希少難病の患者と家族を10年間追った“感動のドキュメント”」はタキオンジャパンの製作で、稲塚秀孝さんが撮影・監督を務めた。登場するのはAADC欠損症という先天性の難病を持つ、山形県に住む兄妹と東京都に住む男子の計3人だ。最初は原因不明と言われ、治療法もないと宣告された。寝たきりのまま、日々成長していく子どもたち。病名がわかったのは2003年以降のこと。この年に著名な医学雑誌に子どものこうした病気の詳しい特集記事が出て、ようやく診断がついた。
AADCとは芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素の略で、これをつくる遺伝子に異常があった。この酵素は神経伝達物質のドーパミンとセロトニンを作るときに必要で、それがないので神経伝達物質が足りず、神経の間で信号が伝わらなくなって自発的に筋肉を動かせなくなる。全身を硬直させる発作もしばしば起きる。
めったにない病気で、現在わかっている患者は日本では5家系6人だ。台湾は比較的多く、30家系以上いる。世界では約100家系と言われる。
原因がはっきりすると、治療の可能性が見えてきた。遺伝子が働かないのが原因だったのだから、ちゃんと働く遺伝子を補えばいいのだ。
遺伝子治療の概念が提唱されたのは1970年代だ。ウイルスなどの運び屋(ベクター)に必要な遺伝子を組み込んで体内に入れれば、ウイルスに「感染」した細胞でその遺伝子が働き出すはず、という考え方だった。どんなベクターを使えばいいのか、体内にどうやって入れるのがいいのか、といった研究が進められた。
世界初の遺伝子治療は1990年に米国で実施された。ADA(アデノシンデアミナーゼ)という酵素を生まれつき作れない病気の女児が対象だった。日本でも95年に同じ病気の男児に実施された。しかし、
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