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トランプ外交の無謀な賭け——イラン核合意離脱

「最悪の決定」が与える米朝核交渉への大きな影響

鈴木達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)センター長・教授

 5月8日、米トランプ大統領は、かねてより予想されてはいたが、「イラン核合意」(包括的共同作業計画:JCPOA)から離脱することを表明した。米・欧州による核不拡散外交の最大の成功例ともいわれたイラン核合意からの離脱に対しては、すでに国際社会から「最悪の決定」との批判や落胆の声が相次いでいる。

 この衝撃的な決定のもたらすリスクは何か。そして、今後のイラン核開発や核不拡散体制、そして我々がもっとも注目している北朝鮮非核化にむけての交渉にどのような影響を与えるのだろうか。

イラン核合意までの困難な歩み

 まず、イラン核合意に至るまでの経緯、そして合意の持つ意義と重要性について確認しておきたい。

 イランは核不拡散条約(NPT)にも発足当時(1968年)から加盟しており、70年代は米・欧州とも積極的に原子力協力を行っていた。しかし79年のイラン革命以降、欧米との原子力協力は継続されず、イランは自主開発路線に転換する。そして2002年、未申告の核施設・核物質の存在、さらには「核の闇市場」との関係がIAEAにより明らかにされた。これが「イランの核疑惑」の始まりである。

拡大イラン核合意から離脱を表明したトランプ米大統領=ランハム裕子撮影
 2005年に保守派のアフマディネジャド大統領が誕生すると、イランはいったん停止していたウラン濃縮活動を開始、ここからP5(米・ロ・仏・英・中国)+1(ドイツ)とイランとの交渉が始まった。2011年11月にはIAEAが、はじめて「2003年以前に核兵器開発疑惑の根拠」を明示する事務局長報告を公表、これを受けて米国・EUは、石油禁輸、イランとの取引のある金融機関への金融制裁等を強化した。しかし、イランの濃縮活動は拡大を続け、イスラエルによる空爆も懸念されるほど対立が悪化した。

 この転機となったのが、2013年、イランの穏健派ロハニ大統領の誕生である。国際社会との対話路線を進める方針に転換し、米オバマ政権も交渉に積極的に取り組み、2015年7月14日、歴史的な核合意が公表された。そして、7月20日には、国連安全保障理事会でJCPOAを承認する決議2231号が全会一致で採択された。

合意がもつ歴史的な意義と重要性

 この核合意に至るまでの長い交渉の歴史は、その合意の持つ重さ、再交渉の難しさを物語る。さらにその内容は極めて詳細であり、その項目は大きく分けて、次の4項目にわたる。

 1)濃縮活動の制限(15年間)、現在ある在庫は処分
 2)再処理活動停止(15年間)、プルトニウム生産炉は改造
 3)透明性信頼醸成措置の強化、追加議定書批准、
   過去の軍事施設へのアクセスも可能
 4)それに見合った制裁解除

 このうち1〜3が実質上、イランの核開発プログラムを制限するものだ。内容をみると、NPTやどの二国間協定にもない、詳細で独創的な合意事項(例えば重水炉の改造や過去の軍事施設へのアクセス)が並んでいる。この結果、焦点となっていた、いわゆる「ブレークアウトタイム(核兵器作成までのリードタイム)」を、合意前のほぼ3カ月以内でから12カ月以上にまで伸ばすことができた。

 さらに、この合意により、なにより軍事行動の可能性まで迫っていた危機的状況を脱し、外交により対立を回避し、かつイランの核開発リスクを大幅に削減できたことが高く評価されたのである。国際核不拡散体制にとっても、また今後の核開発をめぐる問題解決の前例としても重要な意味をもつ。

トランプ政権「米国第一」のリスク

 では、今回の決定は米国にとってどういう意味を持つだろうか。 ・・・続きを読む
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筆者

鈴木達治郎

鈴木達治郎(すずき・たつじろう) 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)センター長・教授

長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)センター長・教授。1951年生まれ。75年東京大学工学部原子力工学科卒。78年マサチューセッツ工科大学プログラム修士修了。工学博士(東京大学)。マサチューセッツ工科大エネルギー環境政策研究センター、同国際問題研究センター、電力中央研究所研究参事、東京大学公共政策大学院客員教授などを経て、2010年1月より2014年3月まで内閣府原子力委員会委員長代理を務め、2014年4月より現職。またパグウォッシュ会議評議員を2007~09年に続き、2014年4月より再び務めている。

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