世界自然遺産「登録延期」で試される「観光立国日本」の立ち位置
2018年05月30日
当初、登録延期に対し、環境省からは「想定外」という声も上がった。しかし、IUCNの勧告を読むと、とてもよく納得できる内容だった。とくに観光について、観光客の数をコントロールできるような計画を早く立てるように日本政府に促している。世界から旅行者を呼び込もうと「観光立国」を掲げる日本は、できるだけ早く対応する必要がある。
世界自然遺産の登録延期の経緯については、松田裕之横浜国立大学教授がWEBRONZA記事で解説しているが、今後とるべき自然保護策という視点で、あらためてIUCNの報告書を読み直した。IUCNの報告書は、ユネスコのホームページから読むことができる。
IUCNの調査報告書では、最大の脅威として「生物多様性を脅かすノネコなどの外来種」や「絶滅危惧種の交通事故」、「野生種の違法採取」、「観光の影響」を挙げていた。特に注目したのは、具体的な地名を入れて指摘している記載だ。「観光客による環境の攪乱は、西表島については重大な現在の脅威である」。
実際に統計データを調べてみると、沖縄県竹富町の西表島には、相当な数の観光客が来ている。竹富町によると、1990年には西表島を訪れた観光客は12万人だったが、どんどん増えて2007年には40万人を超えた。その後、いったん減ったが、新石垣空港が2013年に開港し、空港から1時間強で西表島に行けるようになると、30万人台まで再び増えた。
観光客が増えたことで、絶滅危惧種イリオモテヤマネコの交通事故死が増えた。2000年ごろまでは年1、2件だったがここ数年は倍増し、2016年は最多の7件を記録した。島でイリオモテヤマネコの保護に携わるNPO法人「トラ・ゾウ保護基金」の高山雄介さんは「ヤマネコが車や人の存在に慣れ、道路上でひかれた別の動物を食べたり、道路近くで餌をとったりすることが増えていると指摘されている」と話す。ほかにも西表島の奥まで入る観光客が増え、希少な植物の生息地が踏み荒らされる危険も増している。
IUCNは西表島について「近年、(観光客の)劇的な増加のため、地域住民や関係機関が懸念を抱えている」とも報告している。
沖縄県が昨年9~11月に島民にアンケートしたところ、
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