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どの故郷にも戦争に使う土砂は一粒もない

IUCNの外来種対策強化の勧告と辺野古土砂全協の取り組み

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 多くの沖縄県民の反対の声を押し切って強行されている辺野古新基地建設事業には、1600万立方米超の埋め立て用の土砂が瀬戸内、門司、五島、天草、佐多岬、奄美大島、徳之島など県外各地から搬入される計画となっている。

 この大量の土砂の搬出元となることが予定されている全国12県18団体の人々が、「どの故郷にも戦争に使う土砂は一粒もない」をスローガンに「辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会」を発足させている。辺野古土砂全協の第5回総会が5月26~28日に沖縄市で開催され、同月29日には阿部悦子共同代表以下のメンバーが沖縄県の謝花副知事を訪ね、搬出元の自治体と沖縄県が外来生物の移出入阻止のために協力関係を構築するように提言を行った。

 この提言は、辺野古新基地建設反対運動において極めて重要な意味を持つことになりそうだ。

IUCNは外来種対策の強化を勧告

土砂全協のパンフレット土砂全協のパンフレット

 前回のWEBRONZAで報じたように、国際自然保護連合(IUCN)は奄美・琉球について「世界自然遺産登録延期」を勧告した。「登録延期」の主因は、米軍北部訓練場の存在を無視・軽視したことにある。「やんばる」の自然の価値が適切に保全される体制を整えた上で登録されるよう、関係者一同で再度挑戦することとなった。

 その際に忘れてならないことが一つある。一昨年8月31日にハワイで開催されたIUCN総会において採択された「島嶼生態系への外来種の侵入経路管理の強化に関する勧告」の存在である。

 IUCNは、島の生態系が外来種の影響を受けやすいことをつとに認識しており、日本政府に世界的にも貴重な奄美・琉球の生態系を外来種の侵入から守る管理体制の確立を要請し、米国政府には日本政府への協力を求めたのである。

 日米両国政府は、この勧告案の審議に際し棄権したが、圧倒的多数で採択されたこの勧告を無視することはできない。貴重な「やんばる」の自然を未来につなぐ責務を有する沖縄県と沖縄県民は、具体的な手立てを通じて、日米両国政府に外来種の侵入を防止するよう迫っていくことが求められる。

生物多様性ホットスポット

 米国最大の環境NGOのコンサベーション・インターナショナルは、生物多様性が高く、同時に人間活動による大きな絶滅圧力にさらされている地域として世界の36地域を生物多様性ホットスポットとして指定している(2018年現在)。図の赤とオレンジで表示した地域がそれであり、日本全体がホットスポットである。

生物多様性ホットスポット(コンサベーション・インターナショナル提供)
 このように生物多様性が高い日本において、とりわけ多様性が高いのが沖縄本島北部のいわゆる「やんばる」と呼ばれる地域である。この地域は、国土面積のわずか0.1%を占めるに過ぎないが、単位面積当たりの動物種数は日本平均の51倍、維管束植物種数は45倍以上となっている。まさにホットスポット中のホットスポットである。

8月にも土砂投入

 IUCN勧告が問題視しているのは、新基地建設に伴う辺野古・大浦湾への土砂投入である。沖縄とは生物相が異なる本土各地から大量の土砂が搬入されることで外来種が侵入し、既存の生態系を攪乱(かくらん)することが危惧されているのである。

 いま辺野古の海では、抗議する市民の声を無視して連日数百台のダンプトラックが石材を搬入し、護岸造成が進められている。沖縄防衛局は、本年8月にも辺野古側での外周護岸の造成を終え、外海と仕切られた内部に土砂を投入すると言われている。

 辺野古・大浦湾には、防衛局が行った環境影響調査でも絶滅危惧種262種を含む5800種以上の生物が確認されており、これは世界自然遺産の知床で確認されている生物約4200種を上回る。ジュゴンがすむ辺野古・大浦湾は、「やんばる」の森とともに保全し、未来世代に伝えていくべき貴重な自然である。本土からの土砂の大量投入とそれに伴う外来種の侵入は、この貴重な自然に取り返しのつかない破壊をもたらす。

土砂条例の活用

 沖縄県と沖縄県民にとって、埋め立て事業に伴う土砂の大量投入による環境破壊を抑止する手立てとなるのが「土砂条例」である。

 「土砂条例」は

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