「ビッグサイト問題」に学会・産業界が危機感を募らせている
2018年06月25日
東京五輪の開催まで2年余りに迫り、にわかにクローズアップされてきたのが「ビッグサイト問題」だ。東京・有明にある巨大な国際展示場「東京ビッグサイト」が、2020年のオリンピック期間中、世界各国の報道機関などが利用するプレスセンターとして使用される。このため準備期間を含めて20カ月間にわたり、施設の一部や全部が閉鎖されるのだ。多くの展示会や大型会議に影響が出るという。
学会などにも波及する。昨年以降は化学工学会や医療福祉設備学会、病態栄養学会、静脈経腸栄養学会などがビッグサイトで学術集会やセミナーを開いてきた。業界が主催して学会が協賛・後援するような展示会なら、数知れずある。影響は決して小さくなさそうだ。このほど、対策を話し合う討論会が開かれた。会場で話を聞いた。
討論会に参加したある零細メーカーは訴える。「私たちは社員8人の小さな会社。なかなか交渉のチャンスすらない大企業と、毎年1回、ビッグサイトでの展示会で出会い、1年がかりで関係を築いている。砂漠の長旅でようやく水を飲めるオアシスが、ビッグサイトだ」。そのオアシスが来年から大幅に縮小され、大会中は完全に閉鎖される。
かつて秘密主義を貫いていたアップルが2012年に突然、iPodに部品を供給するメーカー名を公表して、世界中を驚かせたことがある。このときのアップルの「秘密工場リスト」は156社。世界中に散らばり、その内訳は米国が41社。次いで台湾の39社、日本の32社だった。3位に食い込んだ日本は、小さな工場があちこちにあった。
そのなかの一つが、新潟県燕市に本社がある東陽理化学研究所だった。当時の様子を、雑誌「AERA」がこう伝えている。「小林さんは農作業の後、朝8時ごろから、田んぼに囲まれた小さな工場で、職人4人と1日に2千〜3千個のiPodをひとつひとつ丁寧に磨く」。小林さんとは、この工場で働いている職人の1人。研磨用の布を使って、金属の表面を鏡のように手作業で磨き上げる優れた腕前を持っている。この技術の高さを、アップルが買ったのだ。
リストには他にも、長野県伊那市の電子部品メーカーなどの名前があった。「未上場の地方の会社がいきなり世界的に有名になってしまった」と担当者が驚いていた。アップルがどうやって、こうした地方の工場までつかんでいたのか。経緯は不明だが、世界の隅々にくまなく目を光らせているのは間違いない。中小企業が数多く参加する各種の展示会が、その貴重な場になっているのではないか。
討論会は5月23日、日本展示会協会の主催で開かれた。会長の石積忠夫さんは展示会運営会社の社長でもある。「ビッグサイトで開かれる見本市は、その名の通り『市場』だ。魚市場の築地市場と同じだ。東京都は築地市場の移転では豊洲市場を用意するのに、なぜビッグサイトの閉鎖では十分な代替地を用意しないのか」と石積会長。別の業者も言う。「漁師にとって海を奪われるようなもの。自分たちの仕事場がなくなる」
東京ビッグサイトの敷地面積は26万5700平方メートル、延床面積は25万800平方メートルの巨大な施設だ。幕張メッセやパシフィコ横浜をしのぎ、日本最大のコンベンションセンターである。それでも展示面積では世界で68位、アジアでも16位にとどまり、見劣りする。たとえ最大限に活用されても、世界との厳しい競争では不十分なのだ。
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