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レッドリストをどう生かす?保護と利用の調和とは

生物多様性基本法制定10周年記念シンポジウムで議論されたこと

松田裕之 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

 2008年に生物多様性基本法が成立してから10年がたつ。日本の主要な環境団体が共催する「生物多様性基本法制定10周年記念シンポジウム~レッドリストと種の保存~」が2018年6月2日に早稲田大学で開催された。220名ほどが参加し、議員立法で基本法制定を担った一人である田島一成・元環境副大臣と「生物多様性総合評価」検討委員会座長の中静透・総合地球環境学研究所特任教授が基調講演し、その後、種の保存法を中心とした環境省の生物多様性保全施策、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリスト環境省のレッドリスト、私が水産庁と環境省の海洋生物レッドリスト、さらにニホンウナギについての講演があり、パネル討論を行った。

2018年6月2日「生物多様性基本法制定10周年記念シンポジウム」の様子=主催者提供

 この議論を通じて、生物多様性基本法制定時にそれを推進した議員や環境団体の思いを知った。一部は衆議院の議事録からも伺える。生物多様性条約は「生物多様性の保全」「生物資源の持続可能な利用」「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分」を三つの原則とする。当初、議員や野生生物保護法の制定をめざす全国ネットワークは、持続可能な利用を盛り込まない基本法を検討したという。持続的利用という表現が新たな利用の抜け道になるのではないかという危惧があったのだと思われる。私は、自然の恵みを持続可能に利用するために保護するという立場なので、利用と保全の調和を図るような基本法でよかったと思う。

 IUCNと環境省のレッドリストの考え方の微妙な違いも繰り返し議論された。IUCNの「低懸念(LC)」と「データ不足(DD)」が、環境省の「ランク外」と「情報不足」とは異なる定義であることは既にWEBRONZAで述べた。IUCNレッドリストは予防原則に基づくと明記されており、絶滅危惧にも準絶滅危惧にも該当しないのが「低懸念」であって、不確実なものはそこに入らないし、「データ不足」は絶滅の恐れがあることを意味しない。環境省の「情報不足」は、

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