省エネと再生エネでコストとCO2を削減し、メリットをみんなで山分け
2018年06月26日
米国の連邦環境行政の後退ぶりは本欄でも紹介した。では、米国全体が環境保護に不熱心になっているか、と言うと、全然そうではない。日本に比べて州や市による自治が力を持つ米国では、連邦だけでアメリカを見るわけにはいかない。論者が訪れ、見聞きした事例に限られるが、米国の地方での環境保全の実力ある取り組みを紹介したい。
論者が住み、そして教壇に立っているのはイリノイ州ネイパービル市である。シカゴから郊外列車で最速33分、人口15万人で同州5番目の大きな市である。産業はかつてはトウモロコシ栽培、家具製造、ビール醸造であったが、今は、企業の研究所などが就業人口の多くを占めている。
この市は、環境をお目当てに私が選んで来たわけではない。ここにあるノースセントラル・カレッジという大学(中西部では最も古い大学の一つで、古くから女性にも留学生にも門戸を開いている)がフルブライト財団派遣の外国教員を、これまで隔年7人招いていて、昨年のアカデミックイヤーに、今度はこの学校が最近力を入れている環境分野で海外教員を使ってみようとなった。そこに私が応募をし、お邪魔することになった、というのが経緯である。たまたま来た、というのが正直なところだ。けれども、来てみたら、同市は環境熱心でびっくりした。今は、来るべくして来た場所だと思っている。
同市は、イリノイ州でも一、二を争う裕福なまちで、市長は民主党でなく独立系、議員も民主党が少数派である。けれども、2005年には再生可能エネルギー導入計画が立てられ、07年には温室効果ガスの排出目録(インベントリー)が出された。12年には、環境・持続可能性強化計画が策定されて、様々な環境対策が取られている。
それは、1899年に、ここにあった民間発電所を市が買い取って給電を始めたことにさかのぼる。いまは、発電所はなく、イリノイ自治体電力エージェンシーという広域の公営電力卸売り組織から電力を買い、市民に非営利で小売りしている。そうした仕組みだったので、スマートグリッド化がしやすかったのである。
技術的には、需要予測を精密に行い、過剰な電圧での給電を避けて、消費電力を削減し、結果、電力購入コストも減らす、という仕組みである。13年に完成し、14年以降既に4年間の実績がある。
成果はどうであろうか。全市の電力消費は17年には、スマートグリッド化工事前の11年と比べて10.2%削減された。その間の人口増加を考慮して、1人当たりでは14%もの削減である。
卸売り電力の方でも、需要予測をしっかり立てて極力出費が増えないように計算しながら再生可能エネルギーの購入を増やしている。そのおかげで、電力の炭素密度も、14年度が477g/kWhだったのが、16年には385g/kWhにまで19%も下がった。日本よりはるかに優れている。
炭素密度の改善度合いと電力消費の削減度合いを掛け合わせ、CO2ベースでの削減率を試算してみると、ここ数年間で27.5%にもなっている。日本の2030年目標が26%削減だから、脱帽ものである。同市では次の段階として、ダイナミックプライシング(時間帯等によって値段を変える)によって需要の削減も図っている。頼もしい。
なぜ、こんなことが政治的なあつれきを生まずにできるのだろうか。
それは、この電力消費削減が、
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