トランプの米国でコロラド州とイリノイ州の事例を見る
2018年07月18日
論者は約1年、シカゴ近郊の大学で教壇に立つとともに、休暇などを利用して、シカゴはもとより、足を延ばしてアメリカのいくつかの都市を訪れて環境の取り組みを見てきた。
よく知られているように、トランプ大統領の下でお金第一、アメリカ第一の政策が取られ、地球環境のためにアメリカが汗をかこうなどといった雰囲気は連邦政府からはなくなった。
しかし、地方の現場では必ずしもそうではない。民主党がもともと基盤とする州は、相変わらず、環境に熱心に取り組んでいるが、一番悩ましいのは、与党共和党と民主党とが伯仲する州である。そうした州の中には、政争とは一線を画して、地元の熟議の結果、環境に対する取り組みを進めつつあるところも出てきている。二つの事例を紹介したい。
一つは、コロラド州のClean Air Clean Jobs Act、そしてもう一つは、イリノイ州のFuture Energy and Jobs Actである。
まずコロラド州から見てみよう。同州議会は、共和・民主両党が伯仲していて、大統領選挙でも、選挙の都度、支持が揺れるが、実は最大多数はそのどちらにもくみしない独立派であって、その三大勢力が州議会を三分している。
開拓の歴史が浅く、入植当初の気風を色濃く残し、独立自尊の気持ちがあふれているのが、その背景事情である。こうした中で成立したのが、前述の「きれいな大気ときれいな職業」法である。
時は2010年にさかのぼる。民主党オバマ政権の下で、連邦清浄空気法(Clean Air Act)に基づく石炭火力発電所に対する厳しい規制が予想されていた。同州は、この規制に受け身的に対応するのではなく、むしろ先取り的な対応を取って、余分な削減枠を生み出し、それを他州に売るなどして、脱石炭の流れを経済活性化につなげようと企画した。その根拠となる州法がこの2010年Clean Air Clean Jobs Actであった。
同法は、州内の電力事業者に対し、RPS(Renewable Portfolio Standards=再生可能エネルギーの強制買い入れ割合基準)の形で、2020年時点で電源の30%を再生可能エネルギーにすることを義務付けるとともに、古くて効率の悪い石炭火力発電所に関し、天然ガスへの転換に向けた個別の改修計画の提出を義務付ける(州の公益事業委員会が許諾権限を持つ)内容である。
実質的には穏便なものであるが、他州に先駆けて早めに低炭素化に取り組むことで経済競争を有利に進めようとの狙いであった。
コロラド州の州都デンバーは、同法制定に先立つ2009年時点で既に、クリーンテクノロジー分野での雇用数や求人数のランキングにおいて、東海岸や西海岸諸都市に属さない中西部都市圏では第一の地位(全米では6位)を占めており(Clean Edge社調べ。)、環境を軸とした新たな経済競争に頭角を現していた。また、同社の最新の調べ(2017年)によるクリーン・エネルギー普及に関する州別の意欲度ランキングでもコロラド州は、中部の州の中で気を吐き、全米7位につけている。
図は、コロラド州のエネルギー白書の構成である。政策の4本柱の第一が、雇用増とイノベーションに置かれている。実際、同白書では、再生可能エネルギーを中心とした雇用が、2003年から14年の間に56%以上も増加したことや、全米第2位の企業家精神と技術革新気風の州として選ばれていること(ピュー財団調べ)などが誇らしげに報じられている。
では、イリノイ州の場合はどうであろうか。
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