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[2]科学・教育と社会保障、予算の一体的議論を

求められる「若い世代への再配分」……格差の連鎖を止めるためにも

広井良典 京都大学こころの未来研究センター教授(公共政策・科学哲学)

 前稿で私は、高齢世代に著しく偏っている日本の社会保障・教育予算の全体構造に目を向け、その再配分を行うことが必要だと述べた。この私の主張のなかで、特に年金給付の一部を科学・教育予算に再配分するという点については、「年金は高齢者の生活保障の基本をなすものであり、それを大学予算や若者向け支援に振り替えるということなどありえない」という反論が当然あるだろう。

 この反論は一定の妥当性をもつものであるが、これについての私の考えは以下のようなものである。

年金をめぐる問題構造

 まず、年金あるいは高齢者と一口に言っても、高齢者の間で相当な違いがあり、この点を見逃してはいけないという点がある。端的に言えば、現在の日本の年金制度では、高齢者への給付において“「過剰」と「過小」の共存”という状況が生まれている。

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 つまり一方では、高齢者のうち比較的高所得者層が(高所得者であるがゆえにそれに応じて)相当な額の年金を受給しているかと思うと、他方では、国民年金ないし基礎年金は満額(40年間加入)で約6万5千円だが(2017年度)、現実にはたとえば女性の平均受給額は4万円代で、それより低い層も多く存在し、実際65歳以上の女性の「(相対的)貧困率」が約2割で、単身者では52%に上るという状況がある(2009年の内閣府調査)。

 このように、一方で「過剰」と言うべき年金給付があり、他方で“本当に必要な層に十分な年金給付がなされていない”というのが日本の現状だ。

 では、そもそもなぜこのような事態が生じるかというと、それは現在の日本の年金制度が、「報酬比例」と呼ばれる部分を多くもち(厚生年金の“2階”と呼ばれる部分)、この部分は制度の性格それ自体が「高い所得の者ほど高い年金をもらえる」という仕組みになっているからである。しかも日本の年金制度は実質的に賦課方式(高齢者への年金給付を現役世代の拠出する保険料で賄う)なので、その負担を現役世代に求める形になる。

社会保障が格差を増大させる

 逆に、基礎年金は(基礎的な生活を保障するという)性格からすると本来は税によって賄うべきだが、それが実現しておらず(半分が保険料)、上記のように低所得層については十分な年金が支給されないという状況が生じることになる。

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 つまり全体として、日本の年金は「世代内」および「世代間」の双方において、ある意味で“逆進的”な性格、強調して言えば「格差をむしろ増大させる」ような機能をもつ制度になってしまっているのだ。

 これに対し、先ほど社会保障の給付構造に関して日本とデンマークの対比を行ったが、デンマークの場合、日本とは逆に年金制度はむしろ「基礎年金」が中心で(財源はすべて税)、その部分は比較的手厚くかつ平等であり、逆に報酬比例部分はきわめて限定的で小さい。そのため低所得者への保障はしっかりなされる一方、年金全体の給付規模は日本よりも小さいという、正反対の状況が生まれるのである。 ・・・ログインして読む
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筆者

広井良典

広井良典(ひろい・よしのり) 京都大学こころの未来研究センター教授(公共政策・科学哲学)

1961年生まれ。84年東京大学教養学部卒業(科学史・科学哲学専攻)。厚生省勤務、千葉大学法政経学部教授を経て現職。この間、マサチューセッツ工科大学客員研究員。社会保障、医療、環境などをめぐる政策研究からケア、死生観などについての哲学的考察まで幅広く発信。『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書)で第9回大佛次郎論壇賞を受賞した。

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