越智 信彰(おち・のぶあき) 東洋大学経営学部准教授/国際ダークスカイ協会東京支部代表
岡山大学大学院自然科学研究科修了、博士(理学)。国立米子工業高等専門学校講師・准教授を経て2012年より東洋大学准教授。2007年頃より光害の環境教育教材としての有効性に着目し、実践活動に取り組む。2013年に国際ダークスカイ協会東京支部を設立。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
夜間照明の「光の質」の向上が大事、世界に広がる「ダークスカイ・ムーブメント」
「ダークスカイ」という言葉を聞いて、何を思い浮かべるだろうか。何か不吉なことが起こりそうな、真っ黒な雲が垂れ込めた特撮映画のワンシーンのような空であろうか。
ここに4枚の写真がある。スペインの天体写真家からWEBRONZA編集部に届いたものだ。夜空に見えているのは天の川、私たちの属する銀河系の姿である。
南米パタゴニアの海岸で撮影された「写真1」などは、日本人のほとんどが一生に一度も目にすることのない、本当に美しい星空、これこそが「ダークスカイ」だ。そう、ダークスカイとは、人工的な光のない、自然のままの美しい夜空を指す言葉である。
オックスフォード英語辞典(OED)には2011年にdark-skyの項目が追加され、「人工光の影響がほとんどなく、天文観測に適した夜空を指す」(筆者訳)と記述されている。いま世界では、環境意識の高まりに合わせて「ダークスカイ・ムーブメント」が広がりを見せ、国内にもその波が到来しようとしている。
4枚の写真に戻ろう。撮影場所は、南米パタゴニアの海岸、大西洋のカナリア諸島、ピレネー山脈、バルセロナ中心部で、いずれも天の川の同じ領域を撮影した(南半球で撮影された「写真1」は、上下逆さまになっている)。
星から届く光の強さが、地球の場所によって異なるはずはない。星の見え方が違うのは、撮影地点周辺での大気状態の違いによるものであり、その原因の大部分は(写真からもわかるように)街から上空に漏れ出した人工光である。
街灯や大規模スポーツ施設の照明、商業看板やサーチライトなどから出た光は、大気上空でチリや水滴などにより散乱・拡散され、地上にいる人から見て夜空全体が散乱光に覆われた状態になる。この問題は、「光害」(ひかりがい、あるいはこうがい)と呼ばれている。もはや大都市中心部ではかすかな星明かりはかき消され、最も明るい数個の星しか見ることができない。子供たちが星空を眺めて深遠な宇宙に思いを馳せ、科学的好奇心・探究心が芽生える、そんな機会も少なくなっているに違いない。
言うまでもなく、照明は現代人の生活に不可欠である。「星が見えなくなることより、夜の街の安全性・快適性が優先されるべきだ」と考える人は多いだろう。あるいは「『街明かりで星空が見えない』との主張は天文愛好家のエゴだ」との声も散見される。しかし、これらの意見はこの問題をあまりに短絡的に捉え、問題の本質を見誤っている。
私たちが安全・快適な生活に必要としている光は、
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