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記録的な豪雨災害は、貿易風の北上がもたらした

今回の洪水を分析し、防災への実感を高める方策を考える

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 この夏は西日本豪雨、災害級猛暑、台風12号と災害が連続した。いずれも記録的な災害だった。なぜ、このように続けて起きたのか。一言で言えば、本来は赤道付近で吹いている貿易風が日本付近まで北上したためだ。

拡大大きな被害が出た岡山県倉敷市真備町=2018年7月13日、小林一茂撮影
 貿易風(東風)と偏西風(西風)のペアは、赤道で暖められて上昇した大気が中緯度で降りてくるという単純な大循環によって生まれている。宇宙空間から見た地球の自転速度は、赤道表面で秒速460メートルだが緯度が高くなるほど遅くなり、北緯45度では秒速330メートルしかない。循環する大気の東西方向の速さはどこでも変わらないから、相対的に赤道では風が東向きになり、中緯度では西向きになる。

 大循環の原動力は赤道での上昇気流なので、それに対応する貿易風も通常は南北に変動しないが、それがどういうわけか日本近くまで来てしまったのが7月だった。そのため、湿度の高くて暖かい空気が日本の上空に流れ込んできたのである。これが梅雨においては大雨をもたらし、その後は猛暑を呼び込んだ。台風12号の奇妙な動きも、貿易風のせいである。

 本稿では、あれほどの洪水被害を出した豪雨を振り返り、今後に取るべき方策を考察したい。

記録的だった7月の豪雨

 西日本豪雨がどのくらい記録的だったかは、気象庁の平成30年7月豪雨サイトに詳しい。防災科学研究所も特別サイトを設けて調査結果を更新している。防災研ではアメダスだけでなく、国土交通省の気象レーダ網による降雨強度推定「XRAIN」も用いている。XRAINは250メートルのメッシュで雨の強さを1分ごとに実況してくれるほか、川の水位の情報も実況してくれる。災害対策に必須のサイトといえる。

 そこで、まずこれらの資料を元に、降雨と洪水の関係を簡単に説明する。

 気象庁の資料には豪雨期間中の総雨量の分布が示されている。過去3回の豪雨を図に示す。それぞれの雨量のピーク値が違うので、色のスケールが異なることに注意されたい。例えば2014年の高知・徳島豪雨の図で少なめの雨量に色分けされている九州南部は、他の年の豪雨の図では多めの雨量にあたる。

拡大広島市の土砂災害をもたらした2014年の豪雨(7月30日〜8月11日)
拡大茨城県常総市で鬼怒川が決壊した2015年の関東東北豪雨(9月7〜11日)

拡大福岡や大分に大きな被害が出た2017年の九州北部豪雨(7月5日〜9日)
 これらと今夏の豪雨を比べると、一番雨の激しかった 四国太平洋側は、2014年に及ばない。しかし、瀬戸内海側では2014年を上回る総雨量となっており、アメダスの記録では122地点で72時間雨量を更新した。24時間雨量や1時間雨量もそれぞれ76地点と14地点で更新している。

 これは2014年の豪雨での更新数である17地点(72時間雨量)、15地点(24時間雨量)、13地点(1時間雨量)や、昨年の九州北部豪雨での更新数(それぞれ6地点、12地点、7地点)を大きく上回る。今回の豪雨がいかに「広範囲」で記録的だったかがうかがい知れよう。

拡大2018年の豪雨での高梁川水系と芦田川水系の雨量記録。単位はミリメートル
 防災研によると、雨量が一番多かった高知は「数年に一度」のレベルだが、市街地全域(約8平方キロ)が浸水した真備町がある岡山県倉敷市周辺では、24時間雨量が「100年に一度」だったそうだ。アメダスは40年強の歴史しかないが、氾濫を起こした広島・岡山県境に近い高梁川水系や、広島県南東部の芦田川水系の流域では全ての観測地点が何らかの記録を更新しているから、おそらくこの推定は正しいだろう。

降雨と洪水の関係

 今回の豪雨では、特に長時間の積算雨量での更新が多い。これは、川の排水能力が流域から集まる水量に追いつかないタイプ(広域型)の洪水になりやすかったことを意味する。洪水リスクは、アスファルト面の排水が追いつかないタイプ(都市型)の洪水や傾斜地の小規模河川では1時間雨量が多いほど、二級河川では24時間雨量が多いほど、一級河川では72時間雨量が多いほど高くなる傾向にあるからだ。洪水リスクの推定では、24時間や72時間雨量は、降り始めからの総雨量で代用できることも多い。

 では、どのくらいの雨量で川は氾濫するのか。浸水危険地域に住んでいる人には、これが最も重要だろう。結論から言うと、川ごとや地域ごとに異なるので、それぞれの地点で過去の統計から求めるしかない。また、氾濫の結果として堤防が決壊するかどうかとなると、堤防の強度や流れの向きなどが関係しているので、こちらは建設のプロに任せるしかないだろう。

 だが、それでも今回の西日本豪雨で大雑把な関係は見えてきた。それは、瀬戸内海側では降り始めからの総雨量や72時間雨量が流域平均で300〜400ミリを超えると、大規模な氾濫をする主要河川が出てくるらしいということだ。 ・・・ログインして読む
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筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

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