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プルトニウムを「増やしながら減らす」日本の矛盾

変わる世界のプルトニウム政策[1]

竹内敬二 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

 原子力委員会は7月31日、「プルトニウム利用の基本的な考え方」(利用方針)を15年ぶりに改定し、日本保有のプルトニウムの削減方針を打ち出した。日本に大量の余剰プルトニウムがあることは周知のことだったが、これまで原子力委も政府も「量」にはあまり気を使っていなかった。今回、米国から要請がきたことで敏感に反応した。やはり米国からの外圧には弱い。 

拡大使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す予定の六ケ所再処理工場。使用済み核燃料の貯蔵プールでは現在、工場の完成まで使用済み燃料の受け入れを止めている=青森県六ケ所村

 今は「この方針で本当に削減できるのか」が議論されているが、私は削減のトン数の議論よりも、この新方針が日本の原子力路線に与える影響に関心がある。新方針は「プルトニウムを増やしながら減らす」という矛盾した制約を民間会社の発電活動に課すことになり、再処理工場の操業の縮小化、ひいては核燃サイクルへの大きな打撃になると予想される。

日本への態度が変化した米トランプ政権

 プルトニウム削減の話は突然に出てきた。日本経済新聞が6月10日、「米がプルトニウム削減要求」という記事を書いた。核兵器の材料になるプルトニウムが日本では47トンもたまっている。中国などから「不要の疑念を呼ぶ」ので、日米原子力協定の延長(今年7月17日)を機に、日本に削減を求めたというもの。 

拡大2018年6月28日のシンポジウム「北東アジアにおけるプルトニウム」におけるジョーシャン・チョイ氏の資料から
 日経新聞のあと、いくつかの新聞も報じて、「プルトニウム削減」の話題が盛り上がった。原子力委員会は6月中にも削減方針を発表するとみられていたが、結局、7月末になった。原子力委にすれば「新方針を決めたのは、日米原子力協定のからみでもないし、米国の要求でもない。原子力委の自主的な取り組み」なので、協定の延長時期と離したかったのだろう。 

 これまで米トランプ政権は、日本の再処理、余剰プルトニウム問題には厳しい態度をとらない、と思われていたが、そうではなかった。政権内でどんな議論があったかは伝わってこない。

国が民間会社の活動コントロールに踏み切る

 発表された「保有量を減少させる方針」は5項目。

  1. 再処理計画の認可(再処理等拠出金法)にあたっては、六ケ所再処理工場、MOX燃料加工工場及びプルサーマルの稼働状況に応じて、プルサーマルの着実な実施に必要な量だけ再処理が実施されるよう認可を行う。その上で、生産されたMOX燃料については、事業者により時宜を失わずに確実に消費されるよう指導し、それを確認する。
  2. プルトニウムの需給バランスを確保し、再処理から照射までのプルトニウム保有量を必要最小限とし、再処理工場等の適切な運転に必要な水準まで減少させるため、事業者に必要な指導を行い、実現に取り組む。
  3. 事業者間の連携・協力を促すこと等により、海外保有分のプルトニウムの着実な削減に取り組む。(筆者注:再稼働した原発を持たない会社は、再稼働した会社にプルサーマルを委託する、という意味)
  4. 研究開発に利用されるプルトニウムについては、情勢の変化によって機動的に対応することとしつつ、当面の使用方針が明確でない場合には、その利用又は処分等の在り方についてすべてのオプションを検討する。(筆者注:役に立たない少量のプルトニウムについては『捨てる』選択肢も考える、という意味)
  5. 使用済み燃料の貯蔵能力の拡大に向けた取組を着実に実施する。(筆者注:貯蔵プールに入れるのではなく乾式貯蔵を広げる、という意味) 

 要は第1項目の「プルサーマルで使う分だけ、再処理する」である。再処理などは電力業界の活動だが、2015年にできた再処理等拠出金法によって、国が計画の認可をする権限をもつ。これを使って国が再処理をコントロールするということだ。

原発の再稼働が少なければ、あまり減らない

拡大
 しかし、最大の課題は「減らす能力」が極めて小さいことだ。プルトニウムを主燃料とする高速増殖原型炉もんじゅの廃炉を決めた日本でのプルトニウムを減らす能力は、MOX燃料にして原発で燃やす「プルサーマル」しかない。本来は16~18基の原発で実施する予定だったが、今のところ再稼働原発でプルサーマルができるのは4基しかない。今後、ある程度は増えるだろう。 

 一方で、「プルトニウムを増やす(抽出する)」六ケ所再処理工場が2021年にスタートする予定だ。フル操業すれば、年間7トンのプルトニウムが出てくる。こんな量を消費する能力はないので、再処理工場はスタートしても低い操業率に抑えられることになる。 

 それだけではない。日本のプルトニウムはフランスに約16トン、英国に約21トン、日本国内に約10トンある。大半を占める海外のプルトニウムも、日本国内の小さなプルサーマル能力の中で減らすしかない。

「減らす」という制約が再処理、核燃サイクルの打撃に

 この状況の中で、何をするか、何ができるかは限られてくる。 ・・・ログインして読む
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筆者

竹内敬二

竹内敬二(たけうち・けいじ) エネルギー戦略研究所シニアフェロー

エネルギー戦略研究所(株)シニアフェロー。元朝日新聞編集委員。科学部記者、ロンドン特派員、論説委員などを務め、環境・原子力・自然エネルギー政策、電力制度などを担当してきた。温暖化の国際交渉、チェルノブイリ原発事故、3・11などを継続的に取材。著書は、電力業界が日本社会を支配するような社会産業構造がなぜ生まれたのか、なぜ福島事故がおきたのかを描いた『電力の社会史 何が東京電力を生んだのか』(朝日選書、2013年)。

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