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暑い夏 扇(あお)ぐ団扇に 指想う

発生生物学の「逆転の発想」に団扇で迫る

高橋淑子 京都大学教授(動物発生学)

 暑い、暑い。じりじりと肌が焼かれるようだ。京都市内は、連日40度近くの猛暑攻撃を喰らっている。こういう暑い夏に大活躍するのは、なんといっても団扇(うちわ)。パタパタ、パタパタ。

 私は団扇をたくさんもっている。昔ながらの竹製のものや丈夫な赤い渋団扇、それに、プラスチック製の広告団扇もたくさんある。大学の授業で教えるとき、私は団扇をよく使う。暑いからではない。私の専門である「動物のからだづくり」を説明するための「小道具」として、団扇が登場するのだ。

 動物のからだが作られるとき、細胞たちはいろんな「ドラマ」を見せてくれる。たった1つの受精卵が細胞分裂を繰り返してその数を増やしていき、ふと気がつくと、心臓が拍動し、脳がプクーッと膨らんでいる。手足や胃腸も日に日に大きくなる。細胞たちは朝昼晩と一日も休むことなく、せっせと働く。

 私達の手や足には5本の指がある。手の指一本でも怪我をすると、うまく顔が洗えずイライラする。この指は、卵からどのように形作られるのだろうか?

 手足の最初は「しゃもじ」のような格好をしている。小さな体(胎児)の前方に一対(手)と、後方に一対(足)だ。「だったらこのしゃもじから5本の指がニョキニョキ伸びるんだろ?」ーーいやいやそうではない。じゃんけんの、グーからパーを出すようにはいかないのだ。

拡大図1:団扇と、指のでき方

 ここで団扇の登場だ(図1)。しゃもじをさらに団扇に例えてみる。私達の指は5本なので、団扇の「骨」は5本にしよう。そして骨と骨の間の「紙」のところをちぎりとってみる。このようにして残った5本の長細いもの、それこそが私達の5本の指というわけだ。つまり指形成の理解には、細長いものが新たに伸びるというよりも、不要なものが削り取られるという「逆転の発想」が必要だ。

 いうまでもなく、体はすべて細胞でできている。ここで例えた団扇のちぎった紙の部分も細胞である。そこでは、細胞死(アポトーシス)が起きる。細胞死とは、細胞が「音も立てずに(炎症などおこさずに)」死んでいく現象のことだ。

 ではなぜこの部分の細胞だけが死んでいくのだろう? それは ・・・ログインして読む
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筆者

高橋淑子

高橋淑子(たかはし・よしこ) 京都大学教授(動物発生学)

京都大学大学院理学研究科動物学教室・教授(兼)京都大学理事補。広島市出身、広島大学理学部卒、京都大学理学研究科修了(理学博士、1988年)。フランスの国立発生生物学研究所 (CNRS)や、米国コロンビア大学などでポスドク。1994年に帰国。理研CDBチームリーダーや奈良先端大教授を経て、2012年から現職。2010年に「動物の発生における形作りの研究」で猿橋賞受賞。
http://develop.zool.kyoto-u.ac.jp/takahashi.html

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