発生生物学の「逆転の発想」に団扇で迫る
2018年08月14日
暑い、暑い。じりじりと肌が焼かれるようだ。京都市内は、連日40度近くの猛暑攻撃を喰らっている。こういう暑い夏に大活躍するのは、なんといっても団扇(うちわ)。パタパタ、パタパタ。
私は団扇をたくさんもっている。昔ながらの竹製のものや丈夫な赤い渋団扇、それに、プラスチック製の広告団扇もたくさんある。大学の授業で教えるとき、私は団扇をよく使う。暑いからではない。私の専門である「動物のからだづくり」を説明するための「小道具」として、団扇が登場するのだ。
動物のからだが作られるとき、細胞たちはいろんな「ドラマ」を見せてくれる。たった1つの受精卵が細胞分裂を繰り返してその数を増やしていき、ふと気がつくと、心臓が拍動し、脳がプクーッと膨らんでいる。手足や胃腸も日に日に大きくなる。細胞たちは朝昼晩と一日も休むことなく、せっせと働く。
私達の手や足には5本の指がある。手の指一本でも怪我をすると、うまく顔が洗えずイライラする。この指は、卵からどのように形作られるのだろうか?
手足の最初は「しゃもじ」のような格好をしている。小さな体(胎児)の前方に一対(手)と、後方に一対(足)だ。「だったらこのしゃもじから5本の指がニョキニョキ伸びるんだろ?」ーーいやいやそうではない。じゃんけんの、グーからパーを出すようにはいかないのだ。
ここで団扇の登場だ(図1)。しゃもじをさらに団扇に例えてみる。私達の指は5本なので、団扇の「骨」は5本にしよう。そして骨と骨の間の「紙」のところをちぎりとってみる。このようにして残った5本の長細いもの、それこそが私達の5本の指というわけだ。つまり指形成の理解には、細長いものが新たに伸びるというよりも、不要なものが削り取られるという「逆転の発想」が必要だ。
いうまでもなく、体はすべて細胞でできている。ここで例えた団扇のちぎった紙の部分も細胞である。そこでは、細胞死(アポトーシス)が起きる。細胞死とは、細胞が「音も立てずに(炎症などおこさずに)」死んでいく現象のことだ。
ではなぜこの部分の細胞だけが死んでいくのだろう? それは
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