バングラディシュで進化した「浮きイネ」の適応戦略
2018年08月17日
山紫水明の地、日本。しかし、その美しさの裏腹にあるのは災害列島という一面だ。先月上旬に起こった台風7号と梅雨前線による集中豪雨は、観測史上最大の雨量となり、西日本を中心に甚大な洪水被害をもたらした。被害に遭われた方々、猛暑の中で復旧作業に当たっているすべての方々の安全と1日でも早い復旧を心からお祈りする。
自然災害が起こった時、いや、そこまでスケールが大きくなくても、日常的な季候の変動に、我々ヒトは、自ら避難あるいは外環境を変えて生活を営む。熱中症を起こしかねない猛暑では、日中の外出を控え、水分を補給し、あるいはエアコンをつけ室温を下げる。文明の利器を駆使できない動物達も、我々と同様に悪環境から逃避する。砂漠に住む動物達は灼熱の日差しが照りつける日中は地中の巣穴に潜む、などがその例だ。
しかし、大地に根を生やす植物は、どんなにひどい天変地異が起ころうと移動して逃げることはできない。灼熱だろうが、洪水だろうが、その場にとどまり生き延びるしかないのだ。だから、生き延びるために植物が獲得した能力には我々の想像をはるかに超えるものがある。今回は、そんなスーパー植物を紹介したい。
洪水は植物にとっても命取りである。植物は地上部の葉などの表面にある気孔から二酸化炭素を取り込み光合成するが、同時に、大気中の酸素(光合成の副産物としても作られる)を使って呼吸する。しかし、水没下など酸素が足りない環境では、植物も我々と同じように「窒息」してしまうのである。しかし、だ。驚異的な仕組みを進化させた植物がある。それも、我々日本人にとって馴染みの深いイネの仲間でだ。
日本のイネは、水田に(根が水中に使った状態で)育つが、完全に冠水(水没)すると枯死してしまう。ところが、南アジア・東南アジアの洪水地帯には、水かさが増すとぐんぐん成長し、常に水面上に葉を出すことにより生き延びるイネが存在する。「浮きイネ」である。
浮きイネの成長速度は凄まじい。まずは、実験的に冠水させていったビデオを見て欲しい。左が普通のイネ、右が浮きイネである。
この実験では、10日間に水没によって浮きイネは1.5メートルも伸長した。一方、普通のイネはなすすべもなく水没していく。この浮きイネの成長の仕組みに迫るのは、私の同僚でもある名古屋大学生物機能開発利用研究センター芦苅基行教授である。
芦刈さんと博士研究員の黒羽剛さん(現・東北大学生命科学研究科助教)らの研究チームによってサイエンス誌に先月発表された論文では、洪水とともに生きる浮きイネの遺伝子レベルでの巧妙な仕組みが解きほぐされた。
研究グループは、
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