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サマータイムは日本には不要、不適【再掲】

高橋真理子 朝日新聞 科学コーディネーター

 2020年東京五輪・パラリンピックの暑さ対策として、標準時を早めるサマータイムを導入するよう、大会組織委員会が政府に求めました。安倍首相は「内閣としても考える」とし、自民党にも検討を指示したそうです。サマータイムに、本当にメリットはあるのでしょうか。2011年の記事を再掲します(WEBRONZA編集部)。

※以下は、2011年05月18日公開のWEBRONZA記事

 またぞろサマータイム導入が議論されている。すでに5月になっているので、いまさら今年の導入はありえないが、来年以降であろうと日本にサマータイムを導入すべきではない。理由は三つ。第一に、省エネルギー効果がほとんど期待できない。第二に、西日本に不便を強いる。第三に、時間に几帳面な日本人には切り替えが大変なストレスになる。これまでも繰り返しサマータイムが議論の俎上に載ってきたが、そろそろ「日本には不適」と結論を出すときではないか。 

 サマータイムとは、日本の標準時を夏だけ1時間ずらすことである。今の朝7時はサマータイムになると8時になる。切り替えのとき、いつものように朝7時に起きるとすると、昨日より睡眠時間が1時間短くなる。

拡大時間帯別電力使用量
 サマータイムの省エネ効果は、かつては「朝の涼しい時間が利用できるため、オフィスでの省エネ効果がある」と説明されたが、これはオフィスにしか冷房装置がなかったときの発想である。今や一家に一台どころか一部屋に一台のエアコンがある。職場から早く帰ってきても家でエアコンをつけていたら省エネにはならない。実際、消費電力の時間変化を見てみると、午前10時ぐらいから午後8時ぐらいまで、だらだらと高い状態が続く。何らかの省エネ効果があるとしても、1時間シフトすることの影響はきわめて限定的と考えるのが自然である。

 第二の理由は、「太陽が一番高く上ったときが正午」というのが自然な「からだ時計」だとすると、それからのずれが兵庫県明石市以西では1時間分拡大するという点だ。日本の標準時は、明石市を通る東経135度の子午線を基準に決められている。サマータイムにするのは、基準を東側へ15度分ずらすのと同じことだ。そこはどこかというと、根室から約400キロ東の千島列島中部付近である。そこの正午が日本の標準時の正午になる。南西諸島の西端では、「からだ時計」と約2時間も違ってしまう。夕方になっても暑い時間が続くことだろう。

 第三の理由は、欧州の人たちの時間感覚と日本人のそれが違うということだ。たとえば、電車の時刻。日本では時刻表通りに走るのが普通のことで、2,3分でも遅れると「遅れて申し訳ありません」とアナウンスが入る。一方、欧州では、時刻表通りが普通のことではない。遅れるのが普通とまではいえないだろうが、遅れても誰も気にしない。そもそも、電車は発車ベルもなしにいつの間にか発車する。

 サマータイムを長年実施している国々でも、切り替え当日はさまざまな混乱が起こるという。7時発の電車に乗るつもりで駅に行ったら、1時間前に出てしまっていた、などということはいかにも起こりそうだ。それを「そんなものさ」と受け止められる社会でなければ、サマータイム導入はしない方がいい。社会全体が時刻に厳格な日本では、切り替え時に間違えないように皆が相当神経質になるだろうし、それはたとえスムーズに切り替えができたとしても人々に大きなストレスを産む。

 もちろん、そんな混乱は切り替えのときに限られるので、サマータイムにメリットがあるのなら多少の不便は皆で忍ぶ、という考え方もできる。しかし、省エネ効果はあまり期待できず、余暇増加効果もあやしい。「夕方の明るい時間が増えるので、余暇活動が増える」というのが推進派の主張だが、どうして1時間のシフトが余暇活動の増加につながるのか私には理解できない。勤務時間を減らさなければ余暇は増えないだろう。余暇を増やして経済活動を活発にしたいなら、勤務時間を減らすのが当然である。何せ日本の労働時間の長さは世界に冠たるものなのだから、いくらでも削り代はある。

 以上、メリットはあやふやで、デメリットははっきりしている。だから、サマータイム論議はいい加減にやめたらよいと私は思う。

 むしろ、夏は休みを長くしたい。欧州のバカンスを真似て、3週間、4週間の休みをとるのは当たり前、という社会を目指すべきだと思う。避暑地には、安い貸別荘やキャンプ場を整備して、親子で気軽に長期滞在できるようにする。都会の冷房需要を減らし、人々の暮らしにゆとりをもたらす。それこそがいま求められている政策ではないでしょうか。


筆者

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ) 朝日新聞 科学コーディネーター

朝日新聞 科学コーディネーター。1979年朝日新聞入社、「科学朝日」編集部員や論説委員(科学技術、医療担当)、科学部次長、科学エディター(部長)などを務める。著書に『重力波 発見!』『最新 子宮頸がん予防――ワクチンと検診の正しい受け方』、共著書に『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』『独創技術たちの苦闘』『生かされなかった教訓-巨大地震が原発を襲った』など、訳書に『ノーベル賞を獲った男』(共訳)、『量子力学の基本原理 なぜ常識と相容れないのか』。

 

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