安易な決めつけは厳禁、不登校問題の歴史に学ぼう
2018年08月29日
ゲームにはまりすぎた状態を「ゲーム障害」という精神的な病気として世界保健機関(WHO)が6月に認定した。アルコール依存症のような「アディクション(依存、嗜癖)」の一つとしたのだが、研究の蓄積は少なく、わかっていないことも多い。専門家に賛否両論があるにもかかわらず、WHOが公的な医療保健サービスが必要だと判断したのは、現実にインターネットが子どものいる家庭に浸透しつつあり、ティーンエイジャーだけでなく小学生以下の利用時間が増え、一部に日常生活に深刻な影響が出るほどゲームにはまってしまう子どもがいることなどに対する社会の懸念や戸惑いを反映していると言える。
しかし、この件に関するメディア報道は、依存の危険性を注意喚起することに偏りすぎではと懸念している。悲惨なケースをクローズアップする内容は、むやみに子どもの不安を煽る一方、親をパニックに陥りさせかねない。エビデンス(根拠)のある事実は何なのか。親と子、ゲーム開発者という当事者にとどまらず、社会の一人一人に冷静に理解していただきたいと思う。
中国はオンラインゲーム産業を育成してきた国だが、その負の副産物として、ゲームにはまり日常生活の破綻をきたした若者が社会問題化している。一人っ子の行く末を案じてパニックに陥った親たちは、わが子を「治療」を謳う矯正施設に入所させようとやっきになっているという。一部の施設で入所児に暴力や電気ショックを与えていることが発覚しており、これらは「科学的根拠のない隔離」として国際的な批判を浴びている。中国政府は2010年にオンラインゲームに特化した行政規則を制定し、その後も事業者に厳しい規制をかけている。
日本では、10年以上前から安全安心なインターネット環境づくりを目指す計画がすすめられてきた。今年2月には青少年インターネット環境整備法を改正し、そのもとで7月に策定された第4次基本計画で「携帯電話インターネット接続役務提供事業者は実効的なフィルタリングサービスを提供する」「保護者はフィルタリングなどを利用して安全なインターネット使用環境のなかで子どもに使用ルールを教える」「学校は児童生徒に情報リテラシーを教える」「地域は啓発活動を支援する」といった基本方針が掲げられている。
人生の早くからインターネット環境で育つことの影響はまだわかっていないことが多すぎるが、私たちは冷静に覚悟を持って、楽観に偏ることなく、かといって不安からパニックを起こすことなく、答を求め続けなくてはならない。子どもたちの脳が受けるポジティブあるいはネガティブな影響は何か、そしてそれが子どもの認知機能を短期的、長期的にどのように変えるのかといった問いについては、今後、研究を積み重ねて、きちんと答える必要がある。そうして得られたエビデンスを反映する社会の仕組みづくりも欠かせない。
メディア報道では悲惨なケースの強調に違和感を持ったが、より大きな衝撃を受けたのは、子どもの問題行動の原因を科学的根拠なしに家族の責任に安易に帰する報道や解説が少なくなかったことである。このような報道はもはや有害と言わざるをえない。それは、不登校問題をめぐる一連の社会現象を想起すれば、容易に理解できることだと思う。
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