メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

ゲーム依存を「病気」とする根拠はまだ不十分

安易な決めつけは厳禁、不登校問題の歴史に学ぼう

神尾陽子 お茶の水女子大学人間発達教育科学研究所客員教授

WHOが精神的な病気と認定

 ゲームにはまりすぎた状態を「ゲーム障害」という精神的な病気として世界保健機関(WHO)が6月に認定した。アルコール依存症のような「アディクション(依存、嗜癖)」の一つとしたのだが、研究の蓄積は少なく、わかっていないことも多い。専門家に賛否両論があるにもかかわらず、WHOが公的な医療保健サービスが必要だと判断したのは、現実にインターネットが子どものいる家庭に浸透しつつあり、ティーンエイジャーだけでなく小学生以下の利用時間が増え、一部に日常生活に深刻な影響が出るほどゲームにはまってしまう子どもがいることなどに対する社会の懸念や戸惑いを反映していると言える。

 しかし、この件に関するメディア報道は、依存の危険性を注意喚起することに偏りすぎではと懸念している。悲惨なケースをクローズアップする内容は、むやみに子どもの不安を煽る一方、親をパニックに陥りさせかねない。エビデンス(根拠)のある事実は何なのか。親と子、ゲーム開発者という当事者にとどまらず、社会の一人一人に冷静に理解していただきたいと思う。

依存を起こしやすいオンラインゲーム

拡大長時間プレーによる死亡事件が起きて社会問題になった韓国では、PC房(バン)が人気だ。大画面モニターのPCと椅子がずらりと並び、若い男性らがオンラインゲームを楽しむ=2017年9月30日、韓国始興市、野上英文撮影
 ゲームの中でも依存を起こしやすいのは、インターネットに接続して複数で同時に同じ仮想空間に入って遊ぶ「オンラインゲーム」である。2000年頃から急激にオンラインゲームが普及した韓国では、早々に依存の問題が表面化し、10年以上前から治療的取り組みが始まった。16歳未満には深夜時間帯にアクセスできないように事業者に義務付ける、いわゆる「シンデレラ法」による規制をするなど、法制化による対策も講じた。現在は、子どもが自らネット使用時間をコントロールする力を育てることを目標とした早期予防に重点を置くようになっているという。

 中国はオンラインゲーム産業を育成してきた国だが、その負の副産物として、ゲームにはまり日常生活の破綻をきたした若者が社会問題化している。一人っ子の行く末を案じてパニックに陥った親たちは、わが子を「治療」を謳う矯正施設に入所させようとやっきになっているという。一部の施設で入所児に暴力や電気ショックを与えていることが発覚しており、これらは「科学的根拠のない隔離」として国際的な批判を浴びている。中国政府は2010年にオンラインゲームに特化した行政規則を制定し、その後も事業者に厳しい規制をかけている。

 日本では、10年以上前から安全安心なインターネット環境づくりを目指す計画がすすめられてきた。今年2月には青少年インターネット環境整備法を改正し、そのもとで7月に策定された第4次基本計画で「携帯電話インターネット接続役務提供事業者は実効的なフィルタリングサービスを提供する」「保護者はフィルタリングなどを利用して安全なインターネット使用環境のなかで子どもに使用ルールを教える」「学校は児童生徒に情報リテラシーを教える」「地域は啓発活動を支援する」といった基本方針が掲げられている。

 人生の早くからインターネット環境で育つことの影響はまだわかっていないことが多すぎるが、私たちは冷静に覚悟を持って、楽観に偏ることなく、かといって不安からパニックを起こすことなく、答を求め続けなくてはならない。子どもたちの脳が受けるポジティブあるいはネガティブな影響は何か、そしてそれが子どもの認知機能を短期的、長期的にどのように変えるのかといった問いについては、今後、研究を積み重ねて、きちんと答える必要がある。そうして得られたエビデンスを反映する社会の仕組みづくりも欠かせない。

家族の責任を安易に語る報道は有害

 メディア報道では悲惨なケースの強調に違和感を持ったが、より大きな衝撃を受けたのは、子どもの問題行動の原因を科学的根拠なしに家族の責任に安易に帰する報道や解説が少なくなかったことである。このような報道はもはや有害と言わざるをえない。それは、不登校問題をめぐる一連の社会現象を想起すれば、容易に理解できることだと思う。

 ここで ・・・ログインして読む
(残り:約1867文字/本文:約3525文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
Journalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

神尾陽子

神尾陽子(かみお・ようこ) お茶の水女子大学人間発達教育科学研究所客員教授

1983年京都大学医学部卒。京大精神神経科助手、米国コネティカット大学研究員、九州大学大学院助教授を経て2006年-2018年3月まで国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所児童・思春期精神保健研究部部長。現在は発達障害の臨床研究や教育・医・福祉の連携システム構築に携わる傍ら、診療活動に従事。日本学術会議臨床医学委員会委員長、国立精神・神経医療研究センター客員研究員も務める。