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安倍政権が続けば技術立国が危うくなる

総裁選でも総選挙でも技術立国のありかたが争点にならない不思議

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

拡大桜島を背景に自民党総裁選への立候補を表明する安倍晋三総裁=2018年8月26日、鹿児島県垂水市、伊藤進之介撮影
 自民党総裁選の立候補者が出そろった。安倍首相は、2期6年だった総裁任期を3期9年に規約改正したうえでの立候補である。「国政5連勝」という実績を誇るが、経済政策が支持されたのは最初の2年だけで、その後は「他の政党に政権担当能力がない」という、通常の先進国ではあり得ない理由で、国政選挙でも総裁選でも安倍一強を続けて来た。そこに公約・政策議論は見られない。欧米とは大違いだ。

 例えばスウェーデンだが、来る9月9日の総選挙に向け、各政党はこと細かな公約を出している。正確には公約というよりも、公開の質問に対する答えであるが、それが科学・技術の一部門に過ぎない宇宙政策に対してすら存在し、その回答集が国立研究所の掲示板にも張ってある。

 スウェーデンに限らず、欧州(小選挙区制度のイギリスを除く)では一つの政党が過半数をとることはほぼあり得ず、政権は必ず連立(閣外協力を含む)が前提となる。だから、その連立の組み合わせを決めるという意味で、有権者は自分に一番関係する公約を見て(もちろん他の政策や実績も考慮には入れるが)投票先を決めることが出来るのである。それで、弱小政党すら予算・実務の制約を受け入れて政策の優先度・方向性を示し、現実的な公約作りに腐心する。日本で横行する「政権担当能力」云々の議論が生まれる余地なぞない。

拡大総裁選で掲げる政策を発表した記者会見で、質問に答える石破茂氏=2018年8月27日、東京・永田町、岩下毅撮影

 そもそも、政権担当能力とは有権者と政党とで育てていくものである。それを無視した議論の横行は危険な世論操作だと思う。なぜなら、そこが最優先の判断基準になったら、議論を尽くす民主主義より、独裁に近い形で反対意見を封じ込めた方が効率が良いに決まっているからだ。それでも民主主義が良いのは、人々の自由と人権という「パンとブドウ酒のみの幸せを超えた次の段階の幸せ」を保障するだけでなく、独裁にありがちな決定的な間違いを防ぐからだ(「米国の科学の危機を救う三権分立」参照)。

 対抗する石破茂氏との政策論議を避けて総裁選が進むという信じがたい状況のなかで、どのようにすれば「決定的な間違い」を防げるのか? 名案はないが、隗より始めろ。論戦のための材料として、科学と技術の分野での安倍政権のこれまでの政策を私なりに総括してみたい。

流出したロボット技術
 安倍政権に代わって間もない時期に起きたのが、東大初のロボットベンチャー・Schaftのgoogleによる買収である。国としての支援がなかったから優良な技術を持つベンチャーが海外に売られた。その後googleの経営方針の変更で放出された際も、国としての支援はなく、結果的にソフトバンクが買収した。

 ロボット技術は日本が世界をリードする分野である。本来なら、その有力ベンチャーで使われる各種特許技術を他の分野へ応用して幅広い商業化の可能性を探すべく、公的機関は資金や人材確保を支援しなければならない。それを最初から最後まで怠ったのである。

・技術ベンチャー企業を育てなかった
 そもそも、日本では大学発・研究所発のベンチャー企業が育ちにくい。というのも、経営や事務手続きを担える人材が理工系大学院に入り難い仕組みだからだ。欧米では大学院に入試が課せられておらず、学部の成績で入学可否が決まるので、日本に比べて多彩な人材が入学する。それが、仲間が集まっての起業を可能とする。

 日本は「倒産=無一文」のイメージも強すぎる。スウェーデンとは対照的だ。それで新技術の商業化の王道は、大企業の新部門からとなる。しかし、企業には採算や開発方針という制約があり、簡単にはベンチャー的部門を立ち上げられない。ここに日本が抱える問題点がある。

 こういう心理的な課題や人材・ネットワーク支援の必要性を認識せずに、漠然と「ベンチャーのためのコンペ」を開いたりベンチャー融資枠を増やしたりしても、成功する技術ベンチャーは、欧米のようには増えない。安倍氏には、官房長官時代に当時日本が最先端であった無人ヘリ(ドローン)の開発に水を差したという経歴がある(「日本は無人ヘリ先進国、なのに御嶽山には使われなかった無念」参照)。技術や技術者心理に対する理解が全く足りない。

・心配な次世代自動車技術
 ベンチャー起業しにくい弊害として一番心配なのは、日本のドル箱である自動車産業の将来だ。電器・半導体部門での近年の凋落ぶりをみれば、気を緩めてはいけない。なのに、大衆車技術で世界最先端だという現状に甘えて、世界の趨勢ともいえる電気自動車の開発も大企業に任せっきりで、ベンチャーを育てていない。自動運転も後発だ。

・「原子力セールスマン」を務めているという失策
 原子力発電を首相自ら海外に売り込んで「原子力は儲かる」という神話を延命させた結果、東芝が債務超過となった失点(「東芝の巨額損失で見えた『もう一つの原発神話』」参照)は驚くほど指摘されていない。誰もが東芝経営陣のみに罪をなすり付けたが、なぜ首相の責任が問われないのか。今度は日立がイギリスの原発建設で大赤字を出すかも知れない危機となっているのだから、これが選挙の争点にならないのが不思議である。

・エボラ危機で何も得なかった
 エボラでの対応も取捨選択を誤った(「エボラの教訓が日本に指し示すもの」参照)。衛生技術と防護服という日本の十八番での貢献をまともに検討せず、時期遅れの自衛隊派遣を表明して断られた。派遣すべきは看護師であり、日本として開発に専念すべきは特効薬より衛生グッズなのに、「自衛隊派遣という実績」にこだわって、国際協力に水を差したのだ。

・理工系教育を軽視している
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筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

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