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ゲーム依存症を議論するときの三つの論点

利害関係者が多すぎて、まともな議論をするのが難しい現状への処方箋

村井俊哉 京都大学教授(精神医学)

ネットはツールだから「ネット依存」はおかしい

 「中高生のネット依存が5年で倍増、全国で推計93万人」との厚生労働省の研究結果が8月31日に公表された。アルコールや違法薬物などへの依存症は「物質依存症」と呼ばれるが、これらと対比して、ネット依存症は「行為依存症」に含まれる。カジノ法案の成立によって注目されているギャンブル依存症は行為依存症の代表であるが、ネット依存症は、より若い世代でその危険性があるために、国民の大きな関心事となっている。

拡大日本行為依存症医学会が開いた国際シンポジウムでパネル討論の座長を務める筆者(右)

 9月1日、一般社団法人日本行為依存症医学会は、第2回国際シンポジウムを開催し、ゲーム依存症を中心として、行為依存症の問題を議論した。私は座長として参加し、指定発言の機会もいただいた。ちなみに、今回の厚労省の調査対象となった「ネット依存」は、実は言葉自体がややおかしい。本シンポジウムに参加したオーストラリア・シドニー大学のアレクサンダー・ブラスジンスキー教授も強調していたが、インターネットはあくまでツールであり、そのツールを用いて、子どもや大人が依存している対象こそが問題である。たとえば、オンラインのギャンブル、ゲーム、ポルノビデオなどである。そこで以下では「ネット依存」ではなく、「ゲーム依存症」に絞って、私の意見を述べてみたい。

ゲームに関する様々な関係者の様々な利害

 私は精神科医であるが、その立場からゲーム依存症に対する国民の関心の高さには驚くばかりである。同じ程度の関心を、統合失調症や高次脳機能障害など、他の深刻な精神疾患にも向けてもらえたらよいのに、と少し愚痴を言いたくなるほどである。

 これほどまでにゲーム依存症に対する国民の関心が高い理由は、直接・間接に自分の生活に影響を受ける様々な利害関係者が多数いるからであろう。

拡大国際シンポジウムでのパネル討論。左から、ムニダサ・ウィンスロウ・シンガポール国立大学教授、ブラスジンスキー教授、国際eスポーツ連盟のチャン氏、韓国のヨン・チュル・シン医師、坂元章教授

 誰もがすぐに思いつく利害関係者はゲーム業界関係者であるが、それだけではない。ゲーマー自身もそうであろう。今回のシンポジウムでは国際eスポーツ連盟を代表し、レオポルド・チャン氏が登壇されたが、プロのeスポーツプレーヤーはそれで収入を得ており、大会での勝利は彼らにとっての誇りである。小中高生の子どもを持つ家族ももちろん重要な利害関係者である。

 そして、医師や研究者も利害関係者である。ゲーム依存症が病気として認定されれば(実際、世界保健機関=WHO=の新しい疾病分類では「ゲーム障害」は病気として認定された)、医療従事者は仕事が増えるし、研究者は研究領域が広がることになる。さらには、思想信条的関心から、ゲーム依存症に対して強い意見を持つ人もいるだろう。たとえば自然志向の価値観を持つ人は、自分の子どもがゲームに長時間を費やすことに他の人よりも大きな懸念を抱くだろう。

論点を三つに整理・分類

 ゲーム依存症は深刻な問題なので国はもっと対策をうつべきだ、厳しい規制を設けるべきだと言う人もいる。その一方で、昔はテレビの見過ぎで親から叱られていたのが、今はそれがゲームになっただけだ、この問題を大袈裟に捉えるのはおかしい、という人もいる。ゲーム依存症を巡る議論は広がっているが、しかし、これだけたくさんの利害関係者がいると、感情的にならず、まともな議論ができるのだろうか。

 まともな議論をするために、私自身が提案したいことは、論点を整理、分類することである。とりあえず、 ・・・ログインして読む
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筆者

村井俊哉

村井俊哉(むらい・としや) 京都大学教授(精神医学)

京都大学大学院医学研究科・精神医学・教授、精神科医。専門は精神医学一般、神経画像学、高次脳機能障害の臨床。著書に「精神医学の概念デバイス」(創元社)、訳書に「一流の狂気:心の病がリーダーを強くする」(日本評論社)、編著に「高次脳機能障害の考えかたと画像診断」(中外医学社)などがある。