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プルサーマルを推し進めるフランスの今後は?

変わる世界のプルトニウム政策[3]

竹内敬二 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

 フランスらしいというべきか。フランスが建設してきた歴代の高速増殖炉(FBR)の名前(ニックネーム)は魅力的だ。1967年に運転を開始した実験炉は「ラプソディー(Rapsodie)」。次の原型炉は「フェニックス(Phenix)」で、1985年に運転開始の実証炉が「スーパーフェニックス(Super-Phenix)」。いずれも夢や力を感じさせる名前だったが、これら三つのFBRはすでに廃炉になっている。次の建設予定の炉として「アストリッド(Astrid)」があるが、計画の進行は遅れている。

 フランスの原発導入と核燃サイクル計画は世界で最も進んでいるが、拡大基調にはない。今の状況は「原発の使用済み燃料のほとんどを再処理してMOX燃料にして使う、いわゆる『ほぼ完全なプルサーマル』を実行している。しかし、今後さらに、本来描かれてきたサイクルの形であるFBRの実用化へ向かうことには慎重だ」といえる。

再処理工場もMOX工場も国内にある

拡大使用済み核燃料からプルトニウムを取り出すラアーグ再処理工場=2016年10月
拡大メロックスMOX工場内のプルトニウム容器。ラアーグ再処理工場からトラックで運ばれてきた=2013年10月

 フランスには58基の原発があり、電気の約75%を発電している。年間約1200トンの使用済み核燃料が発生し、うち約1000トンを北部のラアーグ再処理工場で再処理している。出てくるプルトニウムはトラックで南部マルクールにあるメロックスMOX工場に運ばれ、MOX燃料(年間約120トン)に加工される。それを約20基の原発で燃やす「プルサーマル」が実施されており、電気の約10%がMOX燃料から生まれている。日本が当面めざしているプルサーマルを、すでにほぼ完全な形で実施していることになる。

 使用済み核燃料の残り約200トンは「使用済みMOX燃料」だ。これについては(サイクル実用化には必要となる)さらなる再処理ができることを確認した上で、それ以上は再処理せずに保管している。いまは再処理をする必要がないからだ。

 日本の使用済み核燃料は、英国の「ソープ」と並んで、ラアーグ再処理工場にも再処理委託されてきた。抽出されたプルトニウムは、メロックス工場でMOX燃料に加工された後、日本へ運ばれ、プルサーマルに使われた。英仏で計約7100トンの使用済み燃料が再処理された。今もフランス国内に約16トンのプルトニウムがあり、順次MOX燃料に加工される予定だ。フランスには再処理工場もMOX工場もある。本来の核燃サイクルの環を閉じるのに欠けているのはFBRだけだ。サイクルに最も近い国であり、今後、FBR開発にどう動くのか、世界が注視している。フランスの政策は日本の原子力政策にも大きく影響する。

アストリッド計画の後退は日本に衝撃

 今年6月、フランスの原子力・代替エネルギー庁の担当者が日本を訪れ、アストリッド計画の現状を報告した。内容は次のようなものだ。

①アストリッドを建設するかどうかは未定。判断は2024年にする。

②電気出力60万kWを予定していたが、10万~20万kWに大幅に小型化する。

③(現在の状況説明として)高速炉は原発に比べて経済性がない。現状のウラン市場では、高速炉実用化に、それほどの緊急性はない。

④実用化するには、大型炉をつくる必要があるが、その主体は仏電力会社EDF。EDFは実用化に向けた投資をする(大型炉をつくる)かどうかを2060年までに判断する。

⑤したがって、高速炉が実用化されるとしたら2080年ごろをめざすことになる。

 これは驚くほどの後退だ。簡単に言えば、「19年に決めると言っていたが、24年に先送りした。建設計画は存続するが、つくったとしても小さくなることは必至。実用化をする、しないの判断はまだ先の話で、うまくいっても実用化は2080年ごろになる」というのである。

拡大

 FBRの実験炉ラプソディーの運転開始が1967年だったことを思い出せば、この時間軸の長さが分かる。ラプソディーと同じ概念の炉の開発に100年以上かかるというのである。「100年を超えて」、あるいは「100年を隔てて」社会から同じ熱意で必要とされる技術があるのだろうか。この大幅な先送りは、FBRが今の時点では「『絶対に必要』とは思われていない技術」になっていることを意味している。最大の理由は、「核燃サイクルは経済的になりたたない」ということだ。

 それにしても10万~20万kWとは大幅な縮小だ。実証炉スーパーフェニックスは「実用化したらこれくらいは必要」として124万kWと巨大だったし、日本の原型炉「もんじゅ」でも28万kWだった。

 今フランスが考えているのは、①小型化して建設費を安くする②国際プロジェクトにして建設負担を軽くする、ということだ。建設費は当初「60万kWで60億ユーロ(約7800億円)」と言われてきたが、100億ユーロへの膨張が予想され、圧縮は最重要課題だ。日本、ロシア、中国、米国が共同研究の候補国だが、建設費負担では日本に大きく期待している。

フランスは「もんじゅ」に期待した

 アストリッドは、実用炉の手前の「工業用の実証炉」という位置づけなので本来は、FBRの使用者になる実質国営のEDFがお金を出すはずだが、乗り気ではなくお金を出したがらない。EDFは、英国などで計画している普通の原発の建設を成功させることに必死だ。

 FBRはいまや電力会社より、開発研究をしてきた役所(原子力・代替エネルギー省)が熱心な計画になっている。「本当はだれがFBRを欲しがっているのか? 電力会社なのか、研究者なのか?」。この辺は日本と似てきた。 ・・・ログインして読む
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筆者

竹内敬二

竹内敬二(たけうち・けいじ) エネルギー戦略研究所シニアフェロー

エネルギー戦略研究所(株)シニアフェロー。元朝日新聞編集委員。科学部記者、ロンドン特派員、論説委員などを務め、環境・原子力・自然エネルギー政策、電力制度などを担当してきた。温暖化の国際交渉、チェルノブイリ原発事故、3・11などを継続的に取材。著書は、電力業界が日本社会を支配するような社会産業構造がなぜ生まれたのか、なぜ福島事故がおきたのかを描いた『電力の社会史 何が東京電力を生んだのか』(朝日選書、2013年)。

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