生化学、なかでも生物無機化学が一押し
2018年09月26日
ノーベル化学賞の予想は、気の滅入る仕事だった(過去形である)。理由は、ほとんど当たらないから。ノーベル自然科学3賞の中で化学賞ほど予想が難しい賞はないというのは、ノーベル賞好きの一致した見解である。それを予想するのは難行苦行だった。しかし、人間、いくつになっても成長するものだ。今年は、逆転の発想に到達した。「どうせ当たらないのだから、どんな予想をしてもいいではないか」と。そう思うと、大変気楽な仕事となった。
その澄み渡った境地で、今年の化学賞を予想しよう。ずばり、「生物無機化学への貢献」で米国カリフォルニア工科大学のハリー・グレイ教授と、マサチューセッツ工科大学のスティーブン・リパード教授と予想する。
グレイ氏は、たんぱく質の中の電子移動について常識を破る現象を発見、光合成などの生物ならではのプロセスを無機化学を利用して解明してきた。生物無機化学の草分けである。リパード氏は、DNAと無機化学を結びつけ、DNA二重鎖の複製を邪魔する白金化合物を開発、これが抗がん剤シスプラチンの開発につながるなど、社会的にも大きな影響を与える基礎的な成果を挙げてきた。
どちらも化学界で高く評価されており、米国化学会の最高賞であるプリーストーリー賞(プリーストーリーは18世紀に酸素を発見したイギリスの化学者)をグレイ氏は1991年に、リパード氏は2014年に受けている。そのほか、グレイ氏はウルフ賞、フランクリンメダルを2004年に、リパード氏もフランクリンメダルを2015年に受けた。
ワトソンとクリックらが1953年にDNAの二重らせん構造を明らかにしてから、分子生物学が爆発的に発展したのはよく知られている通りだ。「分子生物学」は生物学から見た名称で、化学からみれば「生命現象を化学的に研究する」ことにほかならず、この分野は「生化学」もしくは「生物化学」と呼ばれる。
生体の大半はたんぱく質などの有機化合物でできており、DNAも高分子化合物である。炭素と水素が主役の有機化学が生命現象の化学的な研究を主導してきたのは当然のことだった。そこへ無機化学という新しいアプローチで成果をあげたのだから、これは分野の壁を破る見事なイノベーションだと思う。
なぜ、今年と予想したのか。それは、
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