本命は「アト秒パルス」か
2018年09月28日
「重力波、ヒッグス粒子、高温超伝導の発見あたりなら受賞を予想できたけれど、今年はちっともわからない」
先日の日本物理学会の際に知人たちにノーベル物理学賞の見通しについて尋ねてみたが、みんなこう答える。私もちっともわからなくて尋ねているので「そうだよね」と返すしかない。頼りないようだが、みんながわからないのには理由があると思う。
ノーベル賞を受けた業績は確かにどれも偉大だ。しかし、逆に、偉大な業績が必ずノーベル賞を受賞するかというと、そんなことは全くない。明らかに飛び抜けて素晴らしいがノーベル賞と無縁な科学の研究成果はいくらでもある。そもそも受賞者が3名以内の発見だけが対象になるので、上手に3人に絞れない場合はなかなかノーベル賞とは結びつかないし、数多くの研究者が長い年月をかけて達成したような成果はどれほど重要でも対象にならない。最近では「ほどほどに関連した業績をあげた大物を3人集めて共通のキーワードでくくって授賞する」という「3点盛り」方式もちょくちょく見られるようになったが、こうなるといよいよ誰が受賞するか予想のしようもない。たとえば、物性物理学で今日でも活発に研究される「近藤効果」の本質を明らかにした近藤淳(産業技術研究所特別顧問)の業績は少なからぬノーベル賞受賞者と比べても全く遜色ない。これまで受賞しなかったのは、近藤がちょうどいい「3点盛り」に入り損なっているからなのだろう。
そんなわけで、決定打のない今年は「わからない」の一言に尽きる。そう断った上で、私が色々な人に教えてもらった中から勝手に選んだ「有力候補」を挙げてみよう(なお、本稿では敬称は略す)。
私の専門分野に近い基礎的な物性物理学の分野では、トポロジカル絶縁体に代表される「トポロジカル物性」が爆発的に流行している。流行分野のつねで量産型の研究も目につくが、これまで人類が知らなかった新しいタイプの物質・現象が発見され理論的に解明されつつあることは確かだ。実験も急ピッチで進んでいる。この状況を見ると、流行を生んだ立役者たちの受賞というのは大いに考えられる。物性物理学者による推薦がきっと集まっていることだろう。ただ、一昨年のノーベル物理学賞がこの分野の基盤になる理論に与えられているので、さすがに今年は早すぎるかもしれない。トポロジカル絶縁体のノーベル賞は 2020 年と予想しておこう。
より基礎的な方向に目を向けると、
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