ノーベル委が認めるがん治療の4番目の柱は「免疫チェックポイント療法」だけ
2018年10月05日
今年のノーベル医学生理学賞は、免疫を利用したがんの新療法を発見した業績に対して京都大の本庶佑特別教授と、米テキサス大MDアンダーソンがんセンターのジェームズ・アリソン教授に贈られる。体に入ってきた異物をやっつける免疫は、すべての人に備わっている力だ。それを使えばがんも退治できるのではという発想は19世紀からあった。科学者たちは100年以上にわたって「免疫力をアップしてがんを直す」方法を探索してきたが、はかばかしい成果は得られなかった。そこに革命を起こしたのが「免疫のブレーキを阻止する」という新療法だった。
がん治療の3本柱「手術」「放射線」「抗がん剤」にノーベル委員会が加えた4本目の柱は、一般的な「がん免疫療法」ではなく、「免疫チェックポイント療法」である。チェックポイントとは聞き慣れない言葉だが、これこそが2人の新発見で、これが登場する以前の免疫療法では柱になれなかったというノーベル委員会の判断がここに示されている。世の中には、さまざまな「がん免疫療法」が存在し、それらを保険のきかない自由診療として実施する医療機関がある。だが、ノーベル委員会が認めたのはそれら免疫療法一般ではなく、免疫チェックポイント療法に限られることをぜひ多くの人に知ってほしいと思う。
4本柱の図は、スウェーデンのカロリンスカ医科大学ノーベル委員会が発表した背景説明資料の最後に入っている。がん治療を支える4番目の柱は「免疫チェックポイント療法」と書いてある。チェックポイントとは、本庶教授とアリソン教授が発見した免疫細胞が持つ仕組みで、ブレーキの役割を果たす分子のことだ。2人は別々に免疫細胞の表面にあるPD-1、CTLA-4と呼ばれる分子を発見し、それぞれが異なる局面で攻撃にブレーキをかけていることを解明した。
かつては、がん細胞はウィルスや細菌と違って自分の細胞が変化したものだから免疫細胞も「敵」と認識できないのだろうなどと考えられていたが、実はがん細胞への攻撃にブレーキをかける仕組みが存在していたのである。だったら、ブレーキがきかないようにすれば免疫ががん細胞をやっつけるのではないか。アリソン教授はそう考えてブレーキを止める化学物質を動物に与えて効果を確かめ、製薬会社と協力して薬を作り上げた。いち早くPD-1を発見したものの、その役割がなかなかわからなかった本庶グループも、ブレーキ役を果たしていると突き止めてから薬の開発へと進んだ。
開発された薬の効果はそれぞれ目覚ましかった。とくに、「もはや打つ手なし」とされた患者のがんが縮小し、元気になった姿には医師たちも目を見張った。もちろん、すべてのがん患者に効くわけではなく、効果が出なかった患者もいるし、副作用もある。背景説明資料は「免疫システムがコントロールを失うことで、免疫に関連した副作用は高い頻度で起こる」とし、ときには死につながることもあると書く。だが、それはすべてのがん治療法に共通する問題であり、副作用を抑える対応も可能だと説明する。
何より画期的なのは、免疫チェックポイント療法は免疫の仕組みが解明されてから生まれたことだ。つまり、なぜ効くかの理由がはっきりわかっている。これまで動物実験をもとに数多くの免疫療法が提唱されたが、人間で試すとはっきりした効果が認められないものばかりだった。「ほとんど例外なく失敗した」とノーベル委員会は書く。だが、これからはチェックポイントについての知識をもとに、さらに多様な発展が期待できるのだ。
国立がんセンターの「がん情報サービス」サイトでは、がん免疫療法について、「効果が明らかな免疫療法は限られています」と説明し、「現状では『免疫療法』はさまざまな治療法を含んだ言葉であり、有効性が認められているかいないかに関わらず広く『免疫療法』と呼ばれています。そこで、この情報ページでは一般的な意味での免疫療法を『免疫療法(広義)』とし、科学的に有効性(治療効果)が証明されている治療については『免疫療法(効果あり)』として、分けて説明していきます」と注釈している。
PD-1阻害剤(オプシーボ)やCTLA-4阻害剤(ヤーボイ)は、もちろん「免疫療法(効果あり)」に分類されている。これは「ブレーキがかかるのを防ぐ」薬である。一方、免疫細胞を活性化させる「アクセルを強める」タイプもある。
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