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ノーベル物理学賞学者が作った「女性侮辱ビデオ」

レーザー実験施設のプロモーションビデオに批判殺到、本人謝罪

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

 今年のノーベル物理学賞を受ける仏エコール・ポリテクニーク名誉教授ジェラール・ムル氏(74)が主導した欧州のレーザー研究プロジェクト「ELI(Extreme Light Infrastructure=極限光研究施設)」の2013年のプロモーションビデオが「女性研究者を侮辱するもの」と物議を醸している。イギリスの「ザ・ガーディアン」は「ノーベル物理学賞ジェラール・ムルの異様なビデオが表面化」と報道。ムル教授は「心から深くお詫びする。ビデオ作成当時の目的は、ELIで行われる研究を広く知らせ、難解とみられがちなイメージを壊すことだった」と釈明する声明を発表。フランスでも「ル・モンド」などが報道し、エコール・ポリテクニークは「女性の品位を汚すビデオで、見逃すわけにはいかない。しかし、われわれは資金提供していない」などと火の粉を振り払うのに必死だ。

ビデオ「ELIを見たことがあるか?」

 ELIは欧州連合(EU)が約1000億円を出し、チェコ、ハンガリー、ルーマニアに3つの実験施設を作ってレーザー分野の国際共同研究を進めるというプロジェクトだ(高部英明「カリスマの大風呂敷から生まれたノーベル物理学賞」参照)。ムル教授の呼びかけで創設への準備が始まり、2013年4月に国際非営利組織としてELIデリバリーコンソーシアム(DC)が設立された。

レゲエ調の音楽に合わせ実験室で踊る教授と女子学生

 ユーチューブで出回っているビデオは「ELIを見たことがあるか?」というタイトルで、暗い部屋にいる少年が小さな鏡で光を反射させているシーンから始まる。レゲエ調の音楽が流れる中、画面は大学の講義室に切り替わり、教壇にムル教授が立っている。授業を聴いていた(と思われる)10人ほどの学生が突然立ち上がり「ELIを見たことがあるか?」と歌い、踊り出す。ムル教授も一緒に踊り出し、黒板上に展開するアニメーションとビデオでレーザー研究の様子が紹介される。

女性たちが白衣を脱ぐシーン

 ムル教授がBMWのオープンスポーツカーで研究所に来るシーンのあと、大きなパイプが何本も通る研究室でレーザー研究用ゴーグルをかけたムル教授と男性研究者2人、そして女子学生たちがいずれも白衣を着て踊るシーンに。女性たちがセクシーに体をくねらせると前に出てきて、白衣を脱ぎ捨てる。最前列の2人はパツパツの白いショートパンツに1人はタンクトップ、1人は短い白シャツで、シャツの女性が腕を上げるとおなかが見える。その後、セミナー室のようなところで数人が仕事をする(真ん中にムル教授がいる)シーンとなり、最後は少年とムル教授が手をつないで大自然の中を歩いていく。

 著作権はCNRS(フランス国立科学研究センター)とELI、ルシオールプロダクションにあると表示されて終わる。3分55秒のビデオである。

フランス国立科学研究センターは「資金提供していない」

 この問題をいち早く取り上げた科学ジャーナリストのレオニド・シュナイダー氏のサイト「より良い科学のために」の記事によると、

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