日独間の大学連携プログラムに取り組んで、痛感した落差とは
2018年10月26日
スムーズにいくはずの国際連携が思うように進まない。その背景には、欧州での個人や社会の「ものの考え方」「行動の順序」が往々にして日本と真逆であり、それを肌で感じ取れるまでに時間がかかることがあるのではないか。
大阪大に長くいて年10回くらい海外出張をしていた私は、「自分は国際人である」と自負していた。しかし今回、ドイツと複数の日本の大学の連携づくりを手伝ってみて、初めて実感したことがある。それは両国の教育理念や社会のあり方の違いにもとづく根本的な「文化の違い」である。この違いを肌で感じ取れないと、実務は進まない。
大学が海外の研究機関との間で、学生や研究者の交流、定期的な会議などについて包括的な協定を結ぶことはよくある。ドイツでは協定の締結に向けてボトムアップで話が進むが、日本はトップダウンでないと動かない。こんな簡単なことを理解し、正式な議論を始めるのに2年かかった。これは何も大学の問題だけではないだろう。
その中心人物は理学部国際課の責任者、マリア・リヒター=ベイブコフさんである。彼女は研究者ではなく、大学の国際化事業が専門だ。これまでもさまざまな国際協力関係を進めてきた。海外との打ち合わせなどでは、彼女が司会を務めて教授たちから意見を汲み取る。世界に人脈が広がり、TUDの理学部を訪ねる人はすべて彼女のお世話になるほどだ。私は普段から親しくマリアと呼んでいる。
今年5月ごろ、彼女から「関西で9月に学術ワークショップを開催する。フンボルト財団の支援でドレスデンから25名が参加予定だ。しかし日本側との意思疎通がうまくいかない。助けてほしい」と頼まれた。そこで、このワークショップの教員側の責任者で国際交流副委員長のジャン・ワイガンドさんを交えて話し合った。
私は問題点にすぐ気がついた。ドイツではこのような事業を「ボトムアップ」で推進する。つまり、マリアたちが教員の意見を集約し、大学として正式に取り組むように学長と面談して求める。これがドイツの行動様式だ。しかし日本では「ボトムアップ」は必ずしも機能しない。法人化後の大学組織ではなおさら官僚的な色合いが強くなっている。
実は私がドイツ流の「ボトムアップ」を理解できたのは、勤務先のヘルムホルツ協会の成り立ちに驚いたことがきっかけだ。ドイツの大型装置基礎研究所は90年代、加速器、原子核、宇宙、プラズマなどの予算を個別に教育科学省(BMBF)に要求していた。予算項目がかなり重複してしまい、BMBFの官僚も頭を抱えていた。そこであるとき、数名の研究所長が集まって「予算要求を一緒にまとめよう」と決めた。まさにボトムアップでの新ルールだ。申し出を受けたBMBFもそれを認め、研究所間の新たな連携ができた。これに他の研究機関も参加して、2001年に巨大研究機構「ヘルムホルツ協会」が正式に誕生した。現在、18の拠点に約80の研究所があり、職員4万人、年間予算6千億円の規模になっている。
マリアらに相談され、私は動き始めた。日本は「トップダウン」でないと動かない。そこで6月に帰国した際、大阪大副学長と面談した。彼は「国際化は国内競争でこれまで来たが、私は競争より国内協力が今後は必要だと考えている」と、ドイツの提案に賛同してくれた。9月4日に関西3大学の副学長に参加いただき、連携の可能性について討論会を開くことを決めた。
たとえば大阪大では大学間協定が200くらいあるが、どこまで実のある交流ができているか疑問である。中身のある内容にするためには、具体的な課題を掘り起こし、それぞれの大学に持ち帰って十分に検討した上で協定を結べば良いと考えた。
45名の研究者と国際交流担当者が9月3日、晴れ渡る関空に到着した。ところが翌日の台風21号の直撃予報を受けて、討論会は中止に。東京から駆けつけたドイツ学術交流会(DAAD)の所長は、自然災害による不運を我慢する日本人の姿を「釣り人のように忍耐強い」とたとえた。私も「自然の脅威に対して人は無力。恐怖が去るのを待つしかない」と補足した。まさに天からの「トップダウン」に従うしかない日本人の無力感が象徴されている。
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