中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄する米国は、どんな代償を払うか
2018年11月01日
2018年10月20日、米トランプ政権は、ロシアに対しINF(中距離核戦力)全廃条約を破棄する旨の声明を発表し、ロシア政府にも後日その意図を伝えたと報じられた。北朝鮮との非核化交渉を進める中で、なぜトランプ政権はこのような暴挙ともいえる政策を発表したのか。今後の核軍縮や核の傘に依存する欧州や北東アジアの安全保障に与える影響はどうか。そして、特に被爆国である日本はどう対応すべきか。依然流動的な情勢のなかで、冷静な対応策を検討してみる。
そもそもINF条約の意義を我々はどれだけ知っているだろうか。1970年代半ばに、旧ソ連が欧州にSS-20という新たな欧州全域を対象とする中距離ミサイル(500〜5500km)を配備したことがきっかけで、この中距離核戦力問題が顕在化した。これに対し、米国も同様の中距離ミサイルを欧州に配備する一方、NATOからの要請もあって旧ソ連と中距離ミサイル配備を制限すべく交渉を続けた。その転機が来たのが、ゴルバチョフ書記長の登場であり、レーガン大統領との間で1987年、歴史的なINF条約が署名された。その意義は大きく次の2つに集約される。
これにより、欧州における「核戦争」のリスクは大きく削減され、冷戦後も米ロ間の核軍縮交渉を加速化させる役割を果たした。INF条約は、長い核兵器の歴史の中で、まさに「パラダイムシフト」を呼べる画期的な条約だった。
ではなぜ、米トランプ政権はこのような画期的な条約を破棄することを発表したのだろうか。直接の要因として、トランプ大統領やボルトン国家安全保障補佐官は、「ロシアがINF条約違反を犯している」ことを第一に挙げている。次に「INF条約に参加していない中国が、中距離核戦力を高めている」ことを挙げている。
トランプ政権の「核態勢の見直し」を見ると、抑止力そのもの詳細な分析に基づく政策というより、INF条約破棄の真の意図として、新たな核兵器の開発、とくに「多様な脅威に対応できる使用しやすい核兵器の開発」がある。「多様な脅威」については、ロシア、中国、北朝鮮の核兵器のみならず、他の大量破壊兵器や通常兵器、さらにはテロリズム、巨大インフラを対象としたサイバー攻撃による脅威に対しても、核兵器で対応するといった内容を含んでおり、核兵器の役割増大を強調していた。これも「核兵器の役割を減少させ、新たな核兵器の開発は行わない」としていたオバマ政権における核政策の180度転換であり、INF条約の破棄はそのためにも必要と考えたと思われる。
トランプ政権のもう一つの問題は、ボルトン補佐官の考えに大きく影響を受けていると思われるが、「多国間枠組みに対する不信」である。イラン核合意や気候変動条約からの撤退など、トランプ政権がこれまでの国際的な合意や枠組みに大きな衝撃を与えていることも忘れてはならない。
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