小島寛之(こじま・ひろゆき) 帝京大学経済学部教授
東京大学理学部数学科卒、塾講師を経て帝京大学経済学部専任講師、同助教授、2010年から現職。経済学博士。数学エッセイスト/経済学者として著書多数。『完全独習 統計学入門』(ダイヤモンド社)は12万部超のベストセラーとなっている。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
男子よりも強い「医師志向」と、彼女たち自身の性役割意識をめぐって
東京医科大学による入試不正は、受験生と保護者に大きな衝撃を与えた。女子受験生と多浪受験生は一律減点の、また、卒業生の子弟には加点のハンディキャップを課す得点操作だ。その後、文部科学省の調査によって、少なくない私大医学部が同じような得点操作をしていることが判明しており、今、社会問題として大きな拡がりを見せている。
とりわけ、女子受験生に対する減点の理由は、単なる大学経営上の都合ではなく、いわば社会構造に立脚するものであり、深刻である。その理由とは、女性が医師になった際、専門科が偏ったり、結婚・出産・子育てで長期的に医師業務を離脱したりする、ということだ。私大は附属病院の医師に不足が生じることから、女子の入学を制限したいのである。しかし筆者は、この問題に関して、これとは別の二つの視点を持っている。
という視点だ。ここに、問題の本質を見ているのである。
今回の医学部の女子受験者に対する一律減点は、二重の意味でひどい仕打ちである。なぜなら、男子よりも医学部志向の強く、医師になることへの固い決意と情熱を持っている女子に対し、得点でハンデを負わせているからだ。優秀な女子は東大よりも医学部を志望する傾向がある。
筆者が昔、塾の講師をしていた頃、女子を鍛えても塾の実績にならない、というぼやきをよく耳にした。優秀な女子は医学部を受験する傾向が強いからだ。塾の実績では東大合格者数がものを言う。だから、東大合格者を増やしたい塾側としては、女子の医学部受験を不満に思っていたのである。
この実感は本当なのか、良い機会なのでデータで検証してみた。東大合格者がたくさん輩出する有名男子高校と有名女子高校で、東大合格者数と国公立医学部合格者数の比率をとってみたのである。表は、東大合格者と国公立医学部合格者の両方の上位校から、男子校と女子校を抜き出し、それぞれについて、
国公立医学部合格者数 ÷ (国公立医学部合格者数 + 東大合格者数)
を計算したものだ。
表において、数字が大きいほど、「東大より医学部を志向」という傾向の高校であることを意味する。統計の取り方において、合格者の重複や進学先の数字ではないなど問題点は多いが、おおよその検証ぐらいには使えるだろう。
医学部率が異様に高い男子校の灘やラサール、医学部率が非常に低い女子校の女子学院のように例外はあるが、おおよそ、「男子有名校に比べて、女子有名校のほうが医学部志向が高い」ということがわかる。塾の先生方の実感はそこそこ正しかったと思われる。
それでは、優秀な女子が東大より医学部を目指す理由はなんだろうか。筆者の推測ではジェンダーの問題が大きく関わっていると思われる。
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?