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海を漂う謎の幼生の正体を追う

これまで分からなかった成魚との結び付けがDNAの解析で進み始めた

米山正寛 朝日新聞DO科学編集長

拡大ニホンウナギのレプトセファルス標本=東大総合研究博物館蔵
 透明な葉っぱのような姿で海を漂う魚の幼生がいる。「小さな頭」という意味のレプトセファルス(以後、レプトと表記)と呼ばれ、成魚とは全く違った形をしている。ニホンウナギを含むウナギ目に加え、これと近縁なカライワシ目、ソコギス目、フウセンウナギ目に属する魚の、卵からかえってまだ日の浅い赤ちゃんたちだ。

 日本の研究グループが西太平洋で、より若く小さなニホンウナギのレプトを探し求めて海流をさかのぼり、ようやくその産卵場が西マリアナ海嶺にあると突き止めたのは2009年のことだった。その後、「ウナギの卵 見つけた」といったニュースが、大きく報道されたことを覚えている方も多いだろう。

親子関係が分からない

 外洋でプランクトン調査などのために網目の細かなネットをひくと、必ずと言ってよいほどの高頻度でレプトが入ってくる。多くはこれまでよく調べられてきたウナギのほか、アナゴやウツボなどの仲間の幼生と分かる。だが、時には成魚との親子関係、つまり何という魚の幼生かが分からない謎のレプトが見つかることもある。上記の4目には深海魚も多く含まれており、そうした仲間のレプトはかなり珍しい。そして、深海魚の中には発見が極めてまれなために、まだ成魚の標本自体がわずかしか得られていない魚種も少なくないのだ。

 歴史をひもとくと、そもそも1763年には見つかった葉っぱのような形の幼生をもとに、レプトセファルス(Leptocephalus)という属名で記載がなされたそうだ。その時代には、同じように葉っぱみたいな形をした未知の成魚がいるはずだと考えられていたのだろう。しかし、しばらくすると、レプトはすでに知られている魚の幼生ではないのかという考え方も生まれた。そして100年以上の年月を経てようやく、さまざまなレプトがウナギやアナゴの仲間の幼生であることが明らかにされるようになった。

 そんな時に活躍した研究手法は長期にわたる飼育観察だった。水槽の中で根気よく飼い続け、幼生から成魚まで変態させることで、姿の全く異なる幼生と成魚を結び付けて親子関係が解明されていった。昆虫であれば、例えば蛾や蝶の仲間は幼虫(イモムシ)と成虫の姿がまるで違う。捕まえた幼虫を飼って成虫にまで育てることで親子関係を明らかにしてきたわけだから、魚であっても飼育観察は誰もが思いつく有効な手法だろう。

 ところがレプトの中には、いまだに成魚の姿が不明なものも残されている。深海魚のレプトはめったに採れないわけだし、運よく採集できたとしても、現在の技術ではまず育てられない。適切な餌がわからないし、深海と同様の水圧や水温を保ちながら健全に飼育を続けることには、大きな困難があるためだ。

DNAの配列は共通

 それが近年、DNAを使った幼生と成魚の結び付けができるようになって、また少しずつ親子関係の解明が進み始めた。姿は大きく異なっていても、同一種の幼生と成魚ならばDNAの配列は共通する。千葉県立中央博物館の宮正樹生態・環境研究部長や日本大学生物資源科学部の塚本勝巳教授らが、デンマーク、ドイツ、オーストラリアといった海外の研究者とも協力し、今夏に科学誌プロスワンで論文発表した内容を例に、最近の研究の様子を紹介してみよう(*1)。

拡大成魚(左)とレプトセファルス幼生の組み合わせ(縮尺は同じではない)。上段がネオサイエマ属、中段がタンガクウナギ属で、これらは今回の研究でわかった。下段はフクロウナギ属=Jan Y. Poulsenさん提供
 この論文の主役の一つはレプトセファルス・ホルティ(L. holti)だ。 ・・・ログインして読む
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筆者

米山正寛

米山正寛(よねやま・まさひろ) 朝日新聞DO科学編集長

朝日新聞科学医療部記者兼DO科学編集長。朝日新聞の科学記者を経て公益財団法人森林文化協会へ出向し、事務局長補佐兼「グリーン・パワー」編集長を務めた。2018年4月から現職。ナチュラリストを夢見ながら、とくに自然史科学と農林水産技術に関心を寄せて取材活動を続けている。

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