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プラセボの心理効果は、時として本物の薬を上回る

健康食品に秘められた大きな効果を、積極的に活用しよう/前

唐木英明 東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長

 健康志向の高まりとともに健康食品を日常的に摂取する人が増えている。安全性と効果が科学的に証明された健康食品は「保健機能食品」と呼ばれ、特定保健用食品(トクホ)と機能性表示食品、栄養機能食品の三つがある。しかし、それ以外の大多数の健康食品は安全性も効果も、どんな成分がどれだけ入っているのかも不明な「いわゆる健康食品」と呼ばれるものであることを知る人は少ない。だから筆者は、健康食品を購入するのであれば、トクホや機能性表示食品などの表示があるものを選ぶことを強く勧めてきた。

 今回はこのトクホや機能性表示食品(以下、まとめて健康食品という)の「効果の大きさ」の話をしたい。着目して欲しいのは、健康食品は臨床試験により「効果の有無」を判定するが、「効果の大きさ」は問題にしていない、という点である。健康食品を利用する人にとって「効果がある」のは当たり前で、最大の関心は「どのくらい効くのか」である。効果の大きさを表示することで国民が健康食品を適切に選択できるようになれば、国民健康度の改善につながる可能性があるだろう。

健康食品の「効果の大きさ」とは

 健康食品の効果の判定のためにランダム化比較試験が行われる。試験は通常100人以上の被験者をランダムに2群に分けるところから始まる。多人数をランダムに分ける理由は、性別、年齢、体質、生活習慣などの個人差の影響を小さくするためである。

健康食品が持っている「二つの効果」のイメージ

 次にこれを2群に分ける。一方は有効成分が入った健康食品を取るグループ、もう一方は有効成分が入っていない健康食品(これをプラセボと呼ぶ)をとるグループだ。それぞれ何週間か摂取してもらい、有効成分の効果(薬理効果と呼ぶ)を測定する。被験者には自分が飲む健康食品がどちらなのかは知らせない。ひざの痛みに効果がある健康食品の架空の試験結果を図に示す。

 プラセボは健康食品にそっくりの形をしているが、有効成分は入っていない。だから薬理効果はないはずだが、各種の試験結果を見るとかなりの効果が見られる場合がある。これは「プラセボ効果」と呼ぶ。有効成分がないのに効果がある理由の一つは自然治癒である。もう一つは健康食品を飲んだら症状が改善するはずだという期待感が心の働きを介して実際の効果につながった、あるいは健康食品を飲むという行動が無意識の条件反射を引き起こした結果と考えられている。プラセボ効果はこれらの総合的な作用の結果である。

薬の飲み過ぎに歯止めをかけるため用いられるプラセボもある
 他方、試験群は有効成分が入っているので、その効果は薬理効果とプラセボ効果の和になる。そこで試験群の効果からプラセボ効果を差し引くと薬理効果が残ることになる。

 このようなランダム化比較試験の結果、薬理効果があるものが健康食品と認められ、国の制度に基づいて機能性を表示できる。しかし薬理効果がないものは「いわゆる健康食品」になり、機能性の表示はできない。逆に言えばプラセボ効果がいくら大きくても、薬理効果がなければ健康食品と認めていない。それは健康食品の有効成分がもたらすのは薬理効果だけであり、プラセボ効果は健康食品を飲むことで生まれる心理効果ではあるが、有効成分がもたらす効果ではないからである。

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