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公開中止の「MMRワクチン告発」を試写会で見た

監督の「MMRワクチンは自閉症を引き起こす」という主張の荒唐無稽ぶりを検証

高橋真理子 朝日新聞 科学コーディネーター

拡大公開中止を伝える「MMRワクチン告発」ホームページ
 日本で11月17日から全国ロードショーされることになっていた映画「MMRワクチン告発」の公開が中止された。私は試写会で見た。「MMRワクチンと自閉症は無関係」という知識を持っていたのに、映画を見ながら「ひょっとして関係あるのかも」と一瞬思ってしまった。それぐらい映像にはインパクトがあった。映画では日本の状況も言及されている。配給会社「ユナイテッドピープル」がその部分についてアンドリュー・ウェイクフィールド監督に問い合わせたところ、日本のワクチン接種状況について誤った認識をしており、監督の主張(「MMRワクチンは自閉症を引き起こすが、単独ワクチンは安全」)が成り立たないことが明らかになった。これが公開中止の理由である。

 配給会社がこの経過をオープンにしたことで、監督が自分の主張に都合が良いように平気で事実を曲げる(別の表現を使えば「ウソをつく」)人であることが白日の下にさらされた。ワクチンの話は複雑だ。誰の言うことを信じていいのかわからない、と思う人も少なくないだろう。だが、今回の一件で、少なくともウェイクフィールド氏の言うことは信用できないことがはっきりしたと思う。

1998年に「ランセット」に論文発表

 ウェイクフィールド氏は、かつて英国で医師として働いていた。1998年に自閉症とMMRワクチンの関連を指摘する論文を由緒ある医学雑誌「ランセット」に発表し、センセーションを巻き起こした。MMRワクチンとは、はしか、おたふく風邪、風疹の3つのワクチンを混合した生ワクチンで、日本ではDPTワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風)の3種混合ワクチンに対して「新3種混合ワクチン」と呼ばれた。1989年から接種が始まったが、無菌性髄膜炎の多発が問題になり、93年に定期接種が中止された。以後は使われていない。このため、98年にびっくりする論文が出ても日本では「関係ない」とあまり関心を持たれなかった。

 事態は2004年に英日曜紙「サンデータイムズ」が特ダネ記事を掲載して急転する。ワクチンメーカー相手に訴訟を起こした原告の弁護団からウェイクフィールド氏が多額の報酬を得ていたことが明らかにされたのである。その後に論文を精査したところ、多くのウソが混じっていたことが発覚し、ランセットは論文を撤回した。ウェイクフィールド氏は医師免許を剝奪され、その後米国に移り住んだ。

米国に移り住んで自説を広める

 配給会社の資料によると、氏は米国で自閉症児の母で自閉症専門誌「自閉症ファイル」の編集長であるポリー・トミー氏とともに自閉症メディアチャンネルを設立。ここでドキュメンタリー映画を作り始め、テレビやラジオのインタビューも数多く受けるようになった。

 2016年に完成した今回の映画は、自閉症の息子を持つロバート・デニーロがトライベッカ映画祭で上映しようとしたが、専門家の意見を聞いて取りやめた。ところが、その後49州で劇場公開されて約120万ドル(約1.3億円)の興業成績をあげたという。

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筆者

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ) 朝日新聞 科学コーディネーター

朝日新聞 科学コーディネーター。1979年朝日新聞入社、「科学朝日」編集部員や論説委員(科学技術、医療担当)、科学部次長、科学エディター(部長)などを務める。著書に『重力波 発見!』『最新 子宮頸がん予防――ワクチンと検診の正しい受け方』、共著書に『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』『独創技術たちの苦闘』『生かされなかった教訓-巨大地震が原発を襲った』など、訳書に『ノーベル賞を獲った男』(共訳)、『量子力学の基本原理 なぜ常識と相容れないのか』。

 

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