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沖縄のジュゴンはどこに消えたのか?

今こそ国は、辺野古の新基地建設の是非について県と対話を

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 沖縄県は8月31日、名護市辺野古での新基地建設にかかわる埋め立て承認を撤回した。そして9月30日、玉城デニー氏が8万票余の大差で沖縄県知事に選出され、沖縄の民意は辺野古での新基地建設に反対であることが改めて確認された。

 ところが国は、この沖縄の民意を今回も無視し、法治主義をもかなぐり捨てて辺野古新基地建設を強行しようとしている。沖縄防衛局は10月17日、国土交通大臣に対して行政不服審査法に基づく審査を請求し、あわせて処分が出るまで撤回の効果を止める執行停止を申し立てたのである。

法学者たちも「いくらなんでもひどい」

 これには多くの法律家からも強い異議が出た。全国の行政法研究者110人は声明を発表し、「国民のための権利救済制度を乱用し、法治国家にもとる」と批判した。そもそも行政不服審査法とは「私人の権利救済」を目的としたもので、固有の資格を持った行政機関への処分については適用除外とすることが同法第7条2項で明示されている。名古屋大名誉教授の紙野健二氏は「いくらなんでもひどいと感じた行政法学者が多かった」と語っている。

米軍キャンプ・シュワブのゲート前で工事再開に反対する人たち=2018年11月1日、沖縄県名護市、河合真人撮影
 だが国は、この法の趣旨を無視するかのように、防衛省が国交相に救済を求めるという手段に出た。玉城知事は「内閣内部での自作自演」と強く批判。沖縄県は国土交通大臣へ意見書を送り、「国は私人救済を目的とした行審法を使えない」と指摘して、執行停止は却下されるべきだと訴えている。

 しかし10月30日、国交大臣は執行停止を決定した。琉大・早大名誉教授の江上能義氏は「これはひとり沖縄の問題ではなく、日本の民主主義の崩壊である」と断じた(沖縄タイムス2018年10月18日)。かくして11月1日に工事は再開され、土砂投入にむけ準備が整った。県民のあきらめを誘う既成事実づくりを進めようという国の魂胆である。

基地工事とともに消えたジュゴン

 玉城知事は11月6日、首相官邸で菅官房長官と会談し、新基地建設の工事を止めて約1カ月間、協議をすることを求めた。菅官房長官は、協議には応じる一方で工事を継続する意向を伝えた。協議拒否は余りにも悪い印象を国民に与えると考えたのであろう。

工事が再開した米軍キャンプ・シュワブの沿岸=2018年11月1日、沖縄県名護市、河合真人撮影
 この間に協議すべきことは多々あるが、その一つは、工事の前提となっている辺野古・大浦湾の環境保全がなされているか否かの検証である。とりわけ辺野古・大浦湾の素晴らしい自然のシンボルともなり、米国司法の場でも争われてきたジュゴンの保護が十全になされているか否かであろう。

 沖縄防衛局が2011年末に公表した環境影響評価調査(環境アセス)では、沖縄島周辺で個体A、B、Cの3頭のジュゴンが確認されていた。個体Aは嘉陽沖に棲むオス、個体Bは古宇利島沖に棲むメス、そして辺野古沖にしばしば姿を見せていた個体Cは個体Bの子どもである。沖縄のジュゴンは北限のジュゴンであるが、このジュゴンを守る活動を行っている市民団体の「北限のジュゴンを見守る会」は、個体CをCちゃんと呼び、次の図に示されるように辺野古・大浦湾を守る活動のシンボルとしてCちゃんを打ち出している。だがこのCちゃんが、2015年6月24日に古宇利島沖で観察されてから3年5カ月というもの、姿が確認されていない。

「北限のジュゴンを見守る会」のチラシから
 沖縄防衛局が膨大な経費をかけて2007年8月から続けてきた「普天間飛行場代替施設建設事業に係る事後調査」によれば、ジュゴンAとBについては2017年2月6日の着工以降も従来の行動範囲からはずれた状態はみられなかった。だが、Cちゃんについては2015年7月以降、確認がないのだ。
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