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ブレクジットを迎える英国の大学の苦悩

拠出金を上回る研究資金をEUから得ていた英国はどうなる?

廣畑 貴文 英国ヨーク大学教授

EU首脳会議後、記者会見するメイ英首相 =2018年10月18日、ベルギー・ブリュッセルのEU本部、津阪直樹撮影
 英国は2016年6月23日に実施された国民投票で欧州連合(EU)から離脱することを決めた。当日ドイツでの会議に参加していた筆者は、一夜にして為替レートが1割下がるという経験をした。当時の首相の思いつきで行われた投票は、その後の英国の政治・経済に大きな混乱を招いている。離脱まで半年を切ってようやく離脱に向けた暫定合意の目途が立ち、英国の経済などへの影響を最小限に食い止める努力が最終局面を迎えようとしている。しかし、英国の大学で研究と教育に携わる筆者は、前途多難と感じずにはいられない。

英国の大学の厳しい研究環境

ヨーク大学のキングズ・マナー図書館=Brian Robert Marshall撮影
 まず、英国の大学の研究費の実情を説明したい。学生数に応じて研究室に配分される基盤経費はもともと非常に少ない。筆者が所属するヨーク大学では博士課程学生1人につき年間3万円程度である。また、博士課程の学生を雇用するためには奨学金の支給が必須であるので、競争的資金を獲得して奨学金を用意することが研究を進める前提となる。

 理工系の研究資金の配分は、英国工学・物理科学研究会議(EPSRC)や王立協会(Royal Society)、王立工学アカデミー(Royal Academy of Engineering)が主として担っている。後者2機関はフェローシップや少額研究費の配分が中心である。5年ほど前にEPSRCが奨学金の配分を重点機関(Doctoral Training Centre)に限るように変更して以来、英国の大学では研究室の主要戦力である博士課程学生獲得が困難になっている。これに対してEUでは、独仏をはじめとして奨学金が半数程度の学生に支給されており、ブレクジット以前から英国の大学は優秀な人材確保の面で苦戦を強いられている。

図1 過去9年間の英国の科学技術関連予算。Department of Business, Innovation and Skills (ビジネス・イノベーション・技能省)のデータを基に筆者作成。各年次は当該年10月から翌年9月まで。

 また研究費自体もEPSRCにおいては毎年1%程度4年間にわたって削減されている(図1の一番下の青い部分)。英国全体では年2%弱で科学研究関連予算は増加しているものの(2018年、約50億ポンド)、医学・生物系や大型研究施設、グラフェン研究などへの重点的な予算配分により理工系への研究費配分は削減されている。さらに雇用拡大に直結するような研究を優先するため、基礎研究の採択率は5%程度と低くなっている。

 EUでは、全体の研究投資の方針を「ホライズン計画」としてまとめており、2014年から2020年までの7年間のプログラム「ホライズン2020」が現在進行中である。ここでは、アメリカ航空宇宙局(NASA)で導入された技術習熟度(TRL、1:基本原理の確認から9:製品化まで9段階)が6〜7(製品ライン上での試作〜その検証)以上に到達できるような課題を優先的に採択する方針が採られ、基礎研究は欧州研究評議会(ERC)に振り分けられている。なお、これらに加えてEU内での研究交流を主眼とした研究費が準備されている。これらの採択率は平均で14%である。

 2007~13年の期間に英国はEUに54億ユーロを科学研究関連予算として拠出しているのに対して、EUから88億ユーロと1.6倍もの研究費を獲得している。この傾向は現行のホライズン2020でも続き、英国が最も多くの研究費を獲得している。大きな要因の一つとして、申請書に英語が使われていることが挙げられる。

 EUから離脱すると、これらの研究費はどうなるのだろうか? 英国政府は、

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